いざ子どもが生まれても、ドナーの身元の開示は18歳になってから。そこに向け、まず子どもに出自の告知が必要になる。
本人が望めばドナーが誰かを知ることができる
「告知は幼いうちから、できれば6歳前から始めてほしいと思っています。当院ではドナーに手書きのメッセージを書いてもらっているので、親御さんが適切なタイミングで子どもに見せる・読んであげるというのもいいでしょう。
私の子どもたちは8歳と5歳になりましたが、2歳のころから話をしています。絵本を使って、“パパには種がなくて赤ちゃんができないのだけれど、あなたにどうしても会いたかったので、優しい人に助けてもらってあなたが生まれたんだよ”と伝えて。子どもが18歳になったとき、本人が望めばドナーが誰かを知ることができます」
伊藤さんの仕事もまたドナーと夫婦をつなげば終わりというわけではない。子どもが18歳になるまで見守り、長いスパンで彼らと関わっていく。
「お子さんが18歳になったとき、もしドナーがどこの誰か知りたい、連絡したいということであれば、まず当院に問い合わせていただきます。そこでお子さんが状況を理解していて、心理的にも問題ないことが確認できれば、ドナーに連絡を取り、身元情報をお伝えさせていただきます」
子どもを望む不妊夫婦が多い一方、精子提供にまつわる認知は低い。法整備もまだまだ途上で、日本産科婦人科学会はドナーを匿名としている。不妊の当事者として、カウンセラーとして、伊藤さんがこの先目指すものを聞いてみると─。
「私は将来的に完全非匿名制にすべきだと思っています。18年後にドナーの気持ちが変わったとしても、開示の意向は覆さない。その保障があれば私のような親は自信を持って子どもに出自の告知ができる。子どもに“もしあなたが知りたければドナーが誰だか知ることができるし、もしかしたら会えるかもしれないよ”と言える。
そのためにも、信頼できるドナーを集めて、継続的な関係性をつくるとともに、夫婦が安心して告知ができる環境にしていきたいんです。まずはみなさんにドナーについて広く知っていただくことがいちばん。そして将来的に、非匿名での精子提供が当たり前になる日がきたらと思っています」
取材・文/小野寺悦子