認知症と診断されたら過剰な介護に注意
定年後や、さらには介護が必要な人でも役割を与え、できることは自分でやってもらうことが大切。介護従事者などが直面するさまざまな問題の解決策を情報発信している日本通所ケア研究会の会長、妹尾弘幸さんは過剰な介護の危うさについて触れる。
「過剰な介護は、本人の残存機能を発揮する機会を奪うことになり、その状態が続くと機能が低下するおそれがあります。起き上がるのをつい手伝うといった身体面での過剰な介護で、徐々に下肢の筋力が落ちてしまう。
そうした身体面の過剰な介護予防はわかりやすいと思いますが、精神面・認知面の過剰な介護予防は気づきにくいので注意が必要。自分がいる場所や日時などの基本的状況を把握する見当識という能力があります。
例えば、時間の見当識が低下し始めている人に対して、職員が12時になったのでお昼の時間ですよと教えてしまうと、時計を見て時間を判断する機会を奪ってしまう。認知症の方は過剰な介護で認知低下がより早く進む可能性があります」
過剰な介護は介護者が自分でやったほうが早いからと、してしまうことで起こる。
大石さんは、たとえ認知症と診断されても、必要以上に怖がらないでほしいと話す。
「今年1月には認知症基本法が施行されました。認知症のある人との共生社会をスローガンに、さまざまな政策や啓発活動が進められています。
医師、看護師、介護福祉に携わる方たちも、一丸となってこの超高齢社会で急増する認知症に前向きに対応すべく動いています。発症しても仕事や趣味を続け、生き生きと暮らす方も多くいます。
認知症を正しく理解し、少しでも気になることや不安があれば早めに相談や受診をするとよいでしょう」
お話を伺ったのは……大石 智さん●北里大学医学部講師、相模原市認知症疾患医療センター長。医師、博士。日本精神神経学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医。2011年から2013年、文部科学省教職員のメンタルヘルス対策検討会議委員を務める。
取材・文/植田沙羅