一方、複数の場所にピントが合うのが「多焦点レンズ」。メガネやコンタクトレンズが必要なくなる場合もあるが、健康保険が使えないため高額になる。さらに単焦点レンズと比べて見えにくくなることもあるため医師とよく相談して決めることが大切だ。
「白内障の手術をしたことがある知人にも話を聞きましたが、医師に『はっきり見えるレンズがいい』とリクエストをしたら、単焦点レンズをすすめられました。ピントの位置は、トランペットを吹くときの譜面台の位置に合わせたくて。担当の医師は丁寧にピント合わせを行ってくれたので感謝しています」
今では人工レンズの入れ直しができると聞いたことも、安心して手術ができた理由のひとつだった。
「一生同じものを使うのかと思っていましたが、何度か入れ替えができるそうです」
生活がグッとラクに
まずは右目の手術に臨んだ桑野さん。
「目の部分が片方だけあいた布のようなものをかぶせられ、正面にあるベンツのマークのような光を見ているように指示されました。それを見ていると、水のようなものがサーッと流れてきて、15分くらい経過したら手術が完了。いつ麻酔をしたのかわからないほど、痛みもなかったです」
実はビビリなところもあるため、少し怖かったという。
「目に麻酔の注射をするとか、噂は耳にしていたので自分自身、恐怖の手術を想像していましたが、まったく違いました。もしかしたら昔はそうだったのかもしれませんが、医療技術の進歩ってすごいから、不安や恐怖で手術を拒んでいる人がいたら、教えてあげたいね」
両目の手術を終えて眼帯をとると、世界が一変した。
「『うわああ! はっきり見える!』って驚いちゃった。頭から肩の周りにあったモヤモヤが一気に晴れた感じ。譜面台もハッキリ見えるようになって、これからは演奏を間違えても、目のせいにできないよね(笑)。ただ、視力が回復しても老眼は治らないので、スマホを見るときは老眼鏡が必要にはなるけれど、生活がグッとラクになって、大満足しています」
とはいえ、手術をする合間には困ったことも。右目の手術後、いわゆる“ガチャ目”状態でステージに臨んだり、1週間、生活したのだ。
「遠近感が全然つかめなくて、ちょっと気持ち悪かったね。缶ジュースを取ろうとして、倒してしまったこともありました。でも、両目の手術が完了したら元に戻って、問題なかったです」
還暦を超えると、白内障の話題が多く上る。桑野さんも白内障手術について、よく聞かれることが増えたという。
「近所の商店街を歩いていたら、『あんた、白内障の手術したんだって?』と、70代の女性に話しかけられました。下町風情が残る地域なので、芸能人でも気軽に話しかけられるんですよ(笑)。70代なんだから、悩んでる場合じゃないって教えてあげました」