目次
Page 1
ー 洗礼を受け、結婚を機に引退 ー 4歳で音楽と出合うさまざまな音と触れ合って
Page 2
ー 中学3年生のとき初めて人前で音楽を披露
Page 3
ー 『異邦人』でデビュー
Page 4
ー コンテストへの応募は曲を聴いてもらいたいだけだった
Page 5
ー 『白い朝』から『異邦人』へ
Page 6
ー ブラウン管越しに見ていたスターたちと共演 ー 結婚を機に電撃引退「シャッターを閉めます」
Page 7
ー 新婚生活の傍らでバプテスト神学校で勉強 ー 主婦として充実した日々39歳で子どもを授かり─
Page 8
ー 今の仕事は「心のエステ」ちょっとすっきりする方が増えたら

 

「わぁ、この題字、永六輔さんが書かれたんですね!」

 見本誌として開いたこのコーナーの“人間ドキュメント”の文字を見て、驚いた久米小百合さん。'79年にリリースされ140万枚を超える大ヒットを記録した『異邦人〜シルクロードのテーマ〜』で知られる、あの久保田早紀さんだ。さぞや大スター然とした方なのではと思いきや、素顔の彼女はいい意味でとても普通。フレンドリーで温かなオーラに満ちている。

洗礼を受け、結婚を機に引退

物腰が柔らかく穏やかな久米さんの語り口は聞いている人を癒す力がある※撮影/伊藤和幸
物腰が柔らかく穏やかな久米さんの語り口は聞いている人を癒す力がある※撮影/伊藤和幸

 '81年に洗礼を受け、結婚を機に引退。その後は音楽宣教師として活動している久米さん。音楽を用いてキリスト教の教えを伝えるという仕事だ。

「日本のクリスチャン人口は1%くらいなので、“キリスト教ってどういうものなの?”という方も多いと思うんです。それをわかりやすくお伝えしたいなと」(久米さん)

 教会やライブ会場で賛美歌を歌ったり、聖書の教えをテーマにしたオリジナル曲でアルバムを制作したり。また、聖書に登場する“油”=オリーブオイルに関する資格も持ち、聖書で描かれる食べ物についての講座なども開催。10年以上の交流があるという日本オリーブオイルソムリエ協会の遠藤朋美さんは、「主婦目線でカジュアルに話してくださるところが魅力」と語る。

「おいしくお得に使う方法を教えてくださったり、質問をどんどん受け付けて語り合ったり、敷居が高くないんです」(遠藤さん)

 揚げ物に使いたいけど高くて……という悩みには「ミルクパンで揚げ焼きすると少量で大丈夫ですよ」とアドバイス。「その後は同じお鍋で卵焼きなどに使ってくださいね。もったいないから」とひと言添える、まさに主婦代表なのだ。

 そして、東日本大震災のときに立ち上げたNPO法人『LOVEEAST』も、力を入れている活動のひとつ。現在は能登の支援に注力している。

「キリスト教徒の団体ではあるけれど、お寺さんで倒れた灯籠を起こしたり、神社さんの復旧をお手伝いしたり。“困ったときは助け合おう”という思いから始めたので、無名の団体ですけど少しでもお力になれたら、うれしいです」(久米さん)

 昭和の大ヒットシンガー・ソングライターから、聖書の愛を伝える音楽宣教師へ。その道のりを生い立ちから振り返ってみよう。

4歳で音楽と出合うさまざまな音と触れ合って

『異邦人〜シルクロードのテーマ〜』のジャケット
『異邦人〜シルクロードのテーマ〜』のジャケット

 高度経済成長真っただ中の1958年、東京都多摩郡国立町(現・国立市)に生まれた久米さん。若いころアメリカ人家庭で働いていた縁で出会った両親のもとに、ひとり娘として生を享けた。住まいは団地の2階。タワマンなどまだ存在していなかった時代に、アメリカ人の生活を見てきた両親が「こんなところに住めたら素敵だよね」と申し込んだ公団の住居だった。

「広くはないけれど、ダストシュートやシステムキッチンがついていたんです。昭和30年代にしてはモダンな生活をさせてもらえていたのかな」

 と振り返る久米さん。同じ団地の4階に住む友達の家に行くと、一橋大学の時計台が見えた。その美しい景色を、今でも覚えているという。

 幼少期は外遊びが好きな少女。短距離走が得意で、「鬼ごっこの強さは、結構すごかったです」と笑う。

 音楽との出合いは4歳。アップライトピアノが家にやってきたのだ。男の子が生まれたらバイオリン、女の子が生まれたらピアノをやらせようと決めていた母に言われ、「選ぶも何もなく、もう自動的に(笑)」習うようになったという。

「お稽古はもうずっと嫌で、仮病を使ったり突然お腹が痛くなったりよくしてました」

 と苦笑するが、ブルグミュラーやバッハのインベンション、特に『アヴェ・マリア』はお気に入り。また小学校高学年になると、当時のヒット曲を、耳コピしたり譜面を見ながら弾くのを楽しむようになる。

 中でも好きだったのが、そのころブームだったグループサウンズ。沢田研二がボーカルだったザ・タイガースのコンサートに友達と行き、大興奮した。

「子どもは私たちふたりだけ。周りのお姉さんたちの“キャー!!”という歓声に圧倒されましたね。ステージもすごい迫力で、夢のような時間でした」(久米さん、以下同)

 ほかにも萩原健一のザ・テンプターズ、堺正章や井上順のザ・スパイダースなど、好きだったグループはたくさん。そしてここで、キリスト教との不思議なつながりが。

 ピアノを始めてから賛美歌などの宗教的なメロディーに心惹かれるようになり、小学校低学年から友達に誘われて日曜学校に通うようになった久米さん。当時は聖書の教えより、賛美歌や毎回もらえる洋菓子に心奪われていたのだが。

「グループサウンズで好きだった曲が『神様お願い!』(ザ・テンプターズ)や『モナリザの微笑』、ノアの洪水がモチーフの『廃墟の鳩』(共にザ・タイガース)など、キリスト教に関係のある曲で。偶然だと言われるんですけど、とても印象深く響いたんです」

 賛美歌と歌謡曲。正反対のように思えるが、久米さんにとっては矛盾なく、どちらも「いい曲だなあ」と夢中になっていた小学生時代だった。