令和初めての「歌会始の儀」

新春恒例の「歌会始の儀」(2025年1月22日)写真/宮内庁提供
新春恒例の「歌会始の儀」(2025年1月22日)写真/宮内庁提供
【写真】学生時代の佳子さま、割れた腹筋が見える衣装でダンスを踊ることも

 2020年1月16日、「令和」となって初めての「歌会始の儀」が行われた。天皇陛下とともに皇后雅子さまも出席したが、病気療養中である雅子さまにとっては、'03年以来、17年ぶりとなる「歌会始の儀」への出席となった。

 欠席した'04年1月の「歌会始の儀」の雅子さま(当時は皇太子妃)の歌は、《寝入る前かたらひすごすひと時の吾子の笑顔は幸せに満つ》だった。これは、公的な仕事から東宮御所に戻った雅子さまが、愛子さまが寝る前のひととき、ベッドの傍らでいろいろな話をした際に、愛子さまがあどけなく幸せそうな笑顔を見せたことに安堵し、将来にわたって愛子さまの幸せを願って詠んだものだという。

 また、'07年の「歌会始の儀」で披露された歌は、《月見たしといふ幼な子の手をとりて出でたる庭に月あかくさす》だ。月見の時季の夕方、愛子さまが「お月さまが見たい」とせがみ、雅子さまは愛子さまと東宮御所の庭に出た。そして、ふたりで月見をした情景を詠んだ歌らしい。

 さらに'09年では、《制服のあかきネクタイ胸にとめ一年生に吾子はなりたり》である。'08年4月、愛子さまは学習院初等科に入学した。小学生となった愛子さまが、新しい制服を着た喜びを歌で表現した。このように、「歌会始の儀」で披露された歌を見る限りにおいても、雅子さまと愛子さまがいかに強い絆で結ばれているのかがよくわかる。体調回復に向けて療養に励む雅子さまにとって、愛子さまが大きな支えとなっている。娘の健やかな成長と幸せこそが、何よりの薬なのかもしれない。

「やはり、愛子さまが出席したからでしょうか。今年の歌会始の儀は、皇后さまがとても楽しそうに見えました」

 このような感想を知人が伝えてくれた。皇室の人間模様が、三十一文字を通してより深く味わえるところがとても興味深い。

 歌会始の選者で山梨県立文学館長の三枝昂之さんは、佳子さまと愛子さまの歌の特徴などを次のように解説した。

佳子さまは、表現力を感じさせる歌ですね。お題の『夢』を、夢そのものではなく『夢中』と自分の行為に引き寄せて、結句を『なほあざやかに』と余韻の広がる言いさしに近い形で収めた点に工夫が光ります。

 愛子さまは、卒業という節目を経て新たな一歩を踏み出したときの歌ですが、キャンパスライフを振り返っての感慨ではなく、これからの、前を見つめた友情と志の歌です。『それぞれの夢』とお題の『夢』の受け方がオーソドックスで、名詞止めのスタイルにも安定感があります

 三枝さんによると、今回のおふたりの歌の特徴は結句によく表れているという。

「『夢』は人生への肯定が広がるお題ですが、佳子さまは過去のある日の忘れがたさを、愛子さまはこれから始まるきらめきを通して、お題のイメージをよく生かしています。その点は同じですね。

 宮中の歌会始は、一つのお題のもとで多くの人が心を寄せ合い、新しい年を祝福する儀式ですが、その特色をおふたりの歌がよく担われたことが心強いです」

 これからも佳子さまと愛子さまの歌がとても楽しみだ。

<文/江森敬治>

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など