苦しいがん治療に耐えるのをやめる
「がん検診には身体に負担をかけるものもあり、結果によっては酷な治療で寿命を縮めるものもあります。がんについて恐れすぎないことが大切。85歳以上の高齢者の体内には、ほぼ必ずがんが存在するのは事実。しかし、必ずしもそれが死因となるわけではなく、実際、がんで死亡する割合はがんが発見された患者の3分の1程度です」
そして、がんが見つかったとき、その後の対策も大切。
「高齢者のがんであれば、苦しい治療に耐えて、がんを根絶するより、治療は最小限にして、がんとともに生きていくほうを私はおすすめします。がんは積極的な治療をしなければ、亡くなる少し前まで普通の暮らしができる病気だからです。病院のベッドに縛られずに済んで、健康寿命を延ばせることが多いのでは」
医師が処方した薬を漫然と続けることをやめる
処方薬による体調不良を感じた場合、必ずしも医師に相談する必要はないという。
「特に予防的な薬物療法については、自己判断での中止も許容されます。現代医療では、検査数値が過度に重視され、予防薬が安易に処方される傾向です。また、複数薬剤の併用(ポリファーマシー)も問題となっています」
理想的な医師は、薬の減量や中止に柔軟に対応し、コミュニケーションが取りやすい人だと話す。信頼関係を築ける医師を見つけることが、高齢者医療の質を高める重要な鍵となるそうだ。
世間からの声を気にしすぎることをやめる
高齢なら「こうだ」と決めつけられることが多くある。例えば、高齢者は運転が危ないという風潮。先生はそこに疑問を抱く。
「若いころに比べると体力が落ちたと感じる瞬間があるかもしれません。それで運転を控えようとすることも。しかし、シニアになってから移動手段をなくすのは行動や交友範囲を狭めることになり、生活の質の低下や、認知の衰えを招くことが懸念されます。世間からのプレッシャーに負けず、一日でも長く運転ができるよう健康維持に努めることに意識を向けましょう」
「やめるべきことを実践」し、不安やストレスに縛られることなく、より穏やかで幸せな老後を迎えたい。

教えてくれたのは…和田秀樹医師●精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。東京大学医学部卒業。高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科などを経て、高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わっている。著書に『60歳を過ぎたらやめるが勝ち』(主婦と生活社)など多数。