タイプロは「本人たちに決めさせる」

 オーディション番組の見どころのひとつは、審査員の厳しい批評です。シロウトの中ではうまいことと、プロとしてやっていけるかはまた別の問題ですから、審査が厳しいのは仕方ないことでしょう。

『スタ誕』では、山口百恵さんが昭和を代表する作詞家のひとりである審査員の阿久悠さんに「あなたは青春ドラマの妹役ならいいけど、歌手はあきらめたほうがいい」と辛らつなことを言われていましたし、中森明菜さんは審査員の松田トシさんに「顔が子どもっぽいから無理ね。童謡でも歌っていたほうがいいんじゃない?」と身も蓋もないことを言われていました。

『スター誕生!』放送から50年近くたつがいまだにスターの中森明菜
『スター誕生!』放送から50年近くたつがいまだにスターの中森明菜
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 ここでフツウの人ならしょげてしまいそうですが、明菜さんは「スタ誕は童謡は受け付けてないじゃないですか」と言い返し、不合格になったものの、翌年は番組史上最高得点を叩きだし、本選を通過。決戦大会では11社からスカウトされることになります。こういう審査員の酷評や無理難題とも思える課題に食らいついて、成長していく姿が見どころであると言えるでしょう。

 しかし、令和という今の時代にこれをやると、モラハラっぽくなって、timelesz3人のイメージダウンにつながってしまう。かといって、いいよいいよと言うだけでは候補生は伸びず、結果的にいい人材を確保できなくなってしまいます。自分たちのイメージを保ちつつ、どうやって候補者を導いていったのか。以下、私がすごいなと思った点を挙げていきたいと思います。

1 審査が進むにつれて厳しくしていく

 timelesz三人は審査員という立場ですから、候補生よりは“上”のはず。しかし、三人は決して候補者に威圧感を出さず、同じ目線で接しています。そのため、終始オーディションは和やかな雰囲気で進んでいきますが、3次選考以降は口調がぐっと厳しくなっていきます。

 1次審査や2次審査ではエントリーシートが空欄だったり、timeleszをよく知らないと平気で言ってしまう人がいましたが、こういう準備不足、もしくは相手の求めるものが見えていない人は、残念ながらプロにはなれないでしょう。センスのない人に強く言っても、自分が損です。しかし、3次審査ともなれば、そういう人は淘汰されて、見込みのある人が残っているわけですから、ある程度の厳しさは許されるはず。そのあたりの絶妙なさじ加減がうまいなと思いました。

2 本人たちに決めさせる

 グループでのダンス審査の際、ダンス未経験者が重要なパートについてしまい、その結果、グループとしてのクオリティが下がることが予想される場面がありました。菊池風磨さんはそれをグループに率直に指摘しますが、メンバーチェンジをせよと言わずに、判断は彼らにまかせます。このときにすぐにメンバーチェンジを受け入れたのが、新メンバーに輝いた篠塚大輝さんでした。グループが輝かなければ、自分も死ぬ(落ちる)ことになるという賢明な判断からでしょう。

3 令和的なフォローを忘れない

 SMAPの『SHAKE』を課題曲として披露したグループに対し、佐藤勝利さんは「こんな曇っているようなSHAKEは見たことがない」、菊池風磨さんは「話にならない」とキツいコメント。しかし、それはゲームオーバーの宣告ではなく、菊池さんはチームをひっぱれないリーダーを呼び出してアドバイスをするなど、見捨てることはしません。こういう話をするときに人のいないところを選ぶ(他のメンバーに聞かれないようにする)のも令和的な気遣いを感じます。

 佐藤さんがソロパートを歌う人をチェンジするように指示するシーンもありました。昭和・平成なら「できないんだから、しょうがないだろ」で済まされて終わったと思いますが、佐藤さんはチェンジされてしまった人の話を聞いて、気持ちを受け止めてあげる。それはチェンジされたことでモチベーションが下がると、本人はもちろん、グループにも悪影響があると思っての行動ではないでしょうか。