「自分の中で"やります"と言った記憶がないんですよ。最初にオファーをいただいたとき、即、"やらない、いや、やれない"と言ったんですけど(笑い)」
苦笑いしながら佐々木蔵之介がこう話すのは、今年の夏に挑戦する舞台『マクベス』について。シェークスピアの戯曲として有名な作品だが、今回、舞台に立って登場人物を演じる役者は彼ひとり。彼を見守る役としてほぼセリフのない看護師と女医がいるが、蔵之介にとっても初挑戦となるひとり芝居なのだ。
「おかしいですよね。シェークスピアさんだって、ひとりで演じるようには書いていない作品なのに」
作中、蔵之介が演じるキャラクターは20にも及ぶ。この作品に取り組むため、シェークスピアと『マクベス』に縁のあるスコットランドとロンドンに約1週間滞在した彼。そのときの印象を聞くと、
「行く前はスコッチウイスキーがあって、森や湖があって、北だからどんよりした空なのかな、というイメージでした。でも実際は自分の想像以上でしたね」
1日に四季があると言われるくらい目まぐるしく変わる天候や、人を寄せつけない自然。作中にも出てくるバーナムの森を訪れたときのことをこう話す。
「人に優しくないんですよ(笑い)。強い風が吹いて、枯れ木がギシギシ鳴って。そこに何かが"おわします"みたいな……。ああ、西洋の森ってこういうものなんだ、というのが実際の森に立って初めてわかりました」
ほぼひとり芝居なので稽古場もスタッフ以外は、共演者もなく、たったひとり。
「稽古場に入る前はどんなものなのかな、と想像もつかなかったけど、演出家もいてくれるし、ひとりでセリフを入れているときより楽になったかな、という感じです。あと、当たり前ですけど、僕を中心に稽古が回ってくれるんです。5時に終われば明るいうちに飲めてスタッフのみんなも幸せだな。じゃあ、始めるのは……、なんて初めての経験ですよ(笑い)」
初挑戦の状況を楽しんでいるようにも見える蔵之介。47歳まで独身を貫いているが、プライベートでの"ふたり芝居"の予定について聞いてみると、
「そうきますか(笑い)。そうですね、ちょっと気の強い女性なんかいいかもしれませんね。でも、レディーマクベスのように夫の出世のために"殺しなさい"とまで言う人はキツいかな。もうちょっと優しい女性ならそばにいてくれてもいいかもしれませんね」
稽古場でのワンシーン。"またオファーがあったら受ける?"の問いに「ん〜、返事はしません(笑い)」