実際に"お手本"の文字を担当した書道家・はなてるさんはこんな感想を持った。
「ユーミンの詞の世界からは、圧倒的な色彩感覚を覚えました。揺るぎない意思や言葉が放つ生命力の強さも感じて、書いていくうちに言葉に励まされていました」
さらに、ユーミンさえも気づいていなかった歌詞の特徴も発見! こう解説する。
「海・消・淡・沈・涙・流など、サンズイの漢字が多く登場しているんです。サンズイの漢字は音と寄り添っているものが多い。また、変化を受け入れる意味合いもあるので、ユーミンはそのときどきで経験した"音色"を感じとって歌詞に紡いでいるのかと」
同書はそんな世界観を表現しつつ、はなてるさんが書いたというお手本ページを筆頭に4つの構成に分かれている。
②曲ごとに抽出したフレーズを大きめの文字で集中的に練習するページ。
③見本の字を手本にしながら歌詞全体を書くページ。
④自分だけで書いてみるページ。
「ステップを踏むことで"美文字"を習得できる仕組みに。曲の雰囲気に合わせて字のタッチも変えています。お手本に使用した筆記用具も掲載していますよ」(原田さん)
このように、上手な"筆選び"も美文字に近づく方法のひとつと、はなてるさん。
「例えば、かっちりしたタッチで文章を書くときは鉛筆やフェルトペンみたいに引っかかりがあるペンのほうが滑らなくて書きやすい。逆に、やわらかいタッチで文章を書く場合は、なめらかな書き心地のボールペンや万年筆を使うと、力加減のバランスがとれてうまく書けます」
力みすぎない程度に背筋を伸ばし、目線を近づけすぎないことも美文字のポイント。
「『書くユーミン』では、やはり詞の世界へ気持ちを傾けながら練習するのがいいかと。そのうちに慣れてくると、手と紙とペンが調和してくるんです。線に呼吸やメロディーを添え、強弱をつけながら表現していくと、自分なりのリズムが生まれて書くことがより楽しくなりますよ。絵を描くような気分で文字を書くのも、新たな発見があるかもしれません」(はなてるさん)
そんな楽しみを持ったユーミン史上初の"美文字本"。本人もとても気に入っているそうで、こんなアイデアまで飛び出しているとか。
「読者が書いたページをコピーして送ってもらい、それを集めて展覧会をしたいと。その名も、『院展』(日本美術院展覧会の呼称)ならぬ『ミン展』(=ユーミン展)です」(原田さん)
ということで、今回は特別に本書の中から『春よ、来い』の一部をご紹介。ぜひ、この機会に"書くことで感じるユーミンの音楽旅行"を味わってみて。
>>次からのページでは、実際に本の中身をご紹介します