川崎市幸区にある介護付き有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で入居者を殺害したとして、元職員・今井隼人容疑者(23)が逮捕された。容疑者はなぜ3人も立て続けに殺害してしまったのか。
「すいません……」と、消え入るような声を容疑者の母親は何度も発した。その後、記者を振り切るようにして自宅マンション前のタクシーの中へ逃げ込んで走り去った。
メガネにやや大きめのマスク、ダウンを着込み、手には紙袋があった。息子への差し入れか。午前中に家宅捜索があった2月17日午後2時ごろのことである。
昨年9月、川崎市の有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で入居していた高齢者の連続転落事故が発覚した。それは一昨年の11月から12月にかけて、3件も。加えて、介護職員による窃盗、虐待や、風呂での不審死まで続々と明らかになった。
とりわけ転落事故については、窃盗で公判中の元職員に疑惑の目が向けられた。転落死のすべての日に宿直していたからである。当時、本誌もその職員を直撃したが、インターホン越しにこう一蹴されていた。
「関係ありません。マンションのほかの住人の迷惑になりますからやめてください」
自分のことより、ほかの住人のことをことさらに言い立てたことと、冷徹な口調が妙に引っかかった。犯人でないなら“自分はやっていない”と主張するものではないのだろうか。そんな違和感が当時、記者の頭をかすめた。
そして今年の2月15日、その元職員・今井隼人容疑者が神奈川県警によって逮捕された。警察は3件とも事故として処理し、鑑識も検証していない。なおかつ司法解剖もしていなかったため、物証はゼロだったにもかかわらず容疑者は自白したのだ。犯行の動機については、こう口にしている。
「夜勤など仕事のストレスがあって、つらかった」
さらに、ほかの2件の転落死についても自供し、認めているという。彼と家族が住む横浜市のマンションを再び訪れた。
「お父さんはお店をやっていて、接客業だから気さくな人だった。金にならない相談にも乗ってあげるとかね。お母さんは控えめで優しい人ですよ。あのご夫婦の子どもがこんな事件を起こすとは」(同じマンションの住人)
だが、その父親は3年前に亡くなっていた。母親は近くの保育園の園長を務める。容疑者については、中学時代の吹奏楽部の同級生が語る。
「特徴のない普通の人間だよ」
吹奏楽部ではトロンボーンを担当していた。最初は学校に備え付けの楽器を使用するが、最終的にはほとんどの部員が自分の楽器を購入する。
「ヤツは最後まで学校の楽器でやっていた。だから熱心ではなかったですね。途中から塾に通いはじめて、部活を休むようになったんです。彼は別に勉強が好きなわけでもなかったし、部活を休む口実に塾に行っていると思いました」(前出・同級生)
容疑者は飽きやすく、長続きしない性格だったのか。それにしても、と続ける。
「友達は少ないほうでしたが、まさか殺人とはね。仲間内でヤツの話が上がったけれど、みんな“人を殺すタイプじゃないけどなぁ”って」
取材・文/フリーライター・山嵜信明と週刊女性取材班