3月29日、安全保障関連法(以下、安保法)が施行される。自衛隊の任務は「専守防衛」から地球のどこでも「交戦」することが可能になった。
「夫や息子が死ぬのではないか? ケガをしたりPTSDになったりするのでは? と家族は非常に心配しています」(『自衛官の人権弁護団・北海道』団長の佐藤博文弁護士)
昨年9月と今年3月26日に、自衛隊員とその家族向けの緊急相談を実施。安保法の成立直前に行った1回目から電話やメール、FAXで35通の切実な声が寄せられたという。
「政府は“リスクはない”の一点張り。隊員や家族への説明は一切ない。民間の生命保険は、紛争地は基本的に補償の対象外ですから、生活を不安がる相談は多い。
また海上自衛隊員の妻は、アフリカ・ジブチに派遣される夫が伝染病などのワクチンを打っている間、子どもをつくらないように言われ、家族計画を立てられなくなったと嘆いていました。
安保法でも任務によっては同様の話が出てくるでしょうね。施行後はさらに切実な相談が増えるのではないか。隊員や家族はもっと声を上げてほしい」(佐藤弁護士)
安保法を懸念するのは隊員の家族だけではない。施行を目前に控えた3月22日、東京・霞が関で東京弁護士会等が共催したシンポジウムには多くの人が集まり、防衛問題に詳しい専門家らの話に聞き入った。
他国を武力で守る『集団的自衛権』について、元防衛官僚の柳澤協二さんは「ありえないシナリオだが最も考えやすいケース」と仮定して、「南シナ海でアメリカと中国の対立が高じて撃ち合いになれば日本有事となって、集団的自衛権発動という格好になるのでは」と予測。米中が戦争をしたら「日本が戦場になるということを考えねばならない」と強調した。
また、武装集団に襲われたNGO職員などを救出する『駆けつけ警護』も可能に。カンボジアPKO(国連平和維持活動)経験を持つ渡邊隆さんは「数十キロ先にいる日本人に危険があったとしても法律上、助けられないことに当時、歯がゆさを感じていた」。
ただ法的にクリアしようと「国民の声に自衛隊は敏感。その支持なしにはできないだろう」と話す。
メディアへの影響を指摘するのは東京新聞論説兼編集委員の半田滋さん。防衛省で、危険な活動を想定した訓練などの取材拒否が相次いでいるとして「首相官邸の動きを忖度するような動きが出ている。
特定秘密保護法を盾にさまざまな情報が絞り込まれ、知る権利をないがしろにされたら民主主義は成り立たない」と警告した。民主主義の主役は私たち。いまだ安保法が「国民の命と生活を守る」とうそぶく安倍首相ではないのだ。