■「お試し改憲」は緊急事態条項から
いよいよ助走を終えた安倍首相は参院選後、憲法のどこから手をつけるのか?
「『緊急事態条項』を新たに盛り込むことが有力視されています」
そう話すのは名古屋学院大学の飯島滋明教授(憲法学・平和学)だ。
「緊急事態条項とは、自然災害や戦争、内乱などの緊急事態に、憲法で守られた人権や法の秩序を一時的に制限して、ときの政府に権限を集中させるよう定めた条項です。首相が閣議決定で緊急事態を宣言すれば、国会の事前承認なしで発動できるうえ、予算も自由に組める。法律と同じ効力を持つ政令も制定できます。市民や自治体は国の指示に従い、協力しなければならず、人権が過剰に制限される恐れもあります」
〈緊急事態条項のポイント〉
◆外部からの武力攻撃、内乱など社会秩序の混乱、地震など大規模な自然災害、その他、法律で定める緊急事態に、首相が閣議決定で宣言
◆内閣が法律と同じ効力を持つ「政令」を制定できる
◆誰もが「国その他公の機関」の指示に従わなければならない
◆衆議院は解散されない
◆首相が「支出その他の処分」の権限を持ち、自治体の長に支持を出す
◆国会には事後承認でOK。緊急事態が100日を超えるときは、その前に国会承認が必要(国会承認は衆議院が優先)
この緊急事態条項について、4月の熊本地震の際、菅義秀官房長官は「国民の安全を守るためにきわめて重く大切な課題」と述べ、災害対策と絡めて憲法改正の議論を展開しようとした。
しかし、飯島教授はこう話す。
「自然災害が多い日本には『災害対策基本法』をはじめ数多くの法律がすでにある。さらに宮城県仙台市、兵庫県神戸市といった被災自治体の首長も緊急事態条項の創設に反対しています」
権限を首相に強化・集中させるこの条項は、むしろ復興の妨げになるかもしれない。日弁連による東日本大震災の被災37自治体へのアンケートでも、災害対策は「地方が主導すべき」との意見が大半だ。
「緊急事態条項のなかでも国会議員の任期延長というテーマになるのでは?」
そう見通すのは、憲法を学ぶ『憲法カフェ』の主催者で『明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)』の太田啓子弁護士。