「居場所が知れると困るんです」
「居所不明の子どもが来てくれたこともあります。本来ならば中2の年、その13歳の男子生徒は母親と一緒にやってきました」(金子さん)
親が借金取りに追われて学校を転々としていた。小学校を卒業しておらず、中学に入学していなかった。
「居場所が知れると困るんです。ここで勉強できますか」
と男子生徒は聞いた。
「心配ない。大丈夫だよ」
と金子さんは答えた。
学力はほとんどゼロ。鉛筆の持ち方もわからず、漢字で名前を書けなかった。数か月通ったあと、彼は言った。
「先生、勉強っておもしろいね。僕も、名前と住所が漢字で書けるようになったよ」
ある日、彼は消えた。
「彼に教えたことがある。全国どこにいても『中2です』と言えば、その土地の中学に通えるって。どこかで中学に入り直していることを願っています」(金子さん)
いろんな生徒がいた。20代で「10÷2」が解けない。4ケタの足し算ができない。中学生の年でも、小学2〜3年生の漢字が書けない。あるいは「12-5」が計算できない。「指は10本しかないから引けない」と訴えたという。
「『10からいったん5を引いて、2を足すんだよ』と教えると、『ああ、そうか』とわかってくれる。学校で仕組みをちゃんと教わっていない。黙って座っていれば1日が終わるんです」(金子さん)
せめて1県に1校は夜間中学を設けるべきでは。