世の父親たちへの警告の小説
母親が子育てに悩んだとき、本来なら一番頼りにしたいのは子どもの父親である夫のはずだ。だが作中に登場する父親たちは、子育てに積極的に関わろうとはせず孤軍奮闘する妻をどこか他人事のように眺めている。
それどころか、「子どもが問題を起こすのは、お前のしつけが悪いからだ」と言って、妻に責任をすべて押しつけようとする父親までいるから始末に負えない。
「この小説を書き上げたときに感じたのは“これは虐待の話ではなく、世の父親と夫たちに対する警告の小説だ”ということ。男たちがもう少し妻の気持ちを考えて、子育てに参加しようとすれば、母親たちがこれほどイライラすることはないし、子どもへの虐待事件も起こらないはずです。
お母さんたちも、最初は夫に手伝いを頼んだり、なだめすかしたりして、子育てに協力してもらえるように努力したと思うんです。でも、ある時点で諦める。そして結局、ほとんどの家庭で母親が育児をひとりでやることになるんです。ですから、この本で私が言いたいのはただひとつ、“父親たちはもっとしっかりしてほしい”ということですね(笑)」
その一方で、「だらしない男たちに比べ、女は強いと実感した」と話す椰月さん。悩みや問題に直面しながらも、3人の母親たちがそれぞれに自分の道を見いだしていく様子からは、確かに女性ならではの強さとしなやかさが伝わってくる。
「私は、後味の悪い小説は書きたくないんです。どの作品でも、、みなさんの身の回りにもいるような、どこにでもいる人たちの人生讃歌を書きたい。つらいことも多いけれど、いいことだってきっとある。そんな人生の肯定感を描いていきたいと思っています」
■取材後記
取材中、小学生の男の子2人を育てるのがいかに大変か語ってくれた椰月さん。
「母親になるまで、自分がこんなに大声を出せるなんて知らなかった。スーパーで息子たちが走り回ったりすると、市内じゅうに聞こえるかと思うくらいの音量で“何やってんの!”と怒鳴っている自分にびっくりします(笑)」
小説の執筆には、息子さんたちが学校へ行っている間と家族が寝た後の時間を使っているそう。作家業と母親業の両立、尊敬します!