自殺の状況により、遺体の損壊も大きく変わる。いずれも悲惨だが、体が車体に弾き飛ばされれば不幸中の幸いで、車両の下に入り込み、台車に巻き込まれ、轢断されてバラバラになれば悲惨である。運転再開は遅れるし、その体を拾う鉄道マンは哀れである。
現場での処理が終わり、運転再開になれば、ようやく乗客たちは救われる。多くの鉄道マンたちも胸をなでおろす瞬間だ。
しかし、その後も“マグロ”の対応は続く。人身事故の車両は、回送で検修現場に入り、異常がないか検査を受ける。このとき、車両が汚れていれば清掃も行う。筆者は、このような作業にも従事してきた。
凄惨な事故の場合、車両の床下機器が血に染まったり、肉片が残っていたりする。それに目を背けず、壊れている機器がないかを確認し、汚れているところを洗い流すのが仕事だ。
人間の肉片を見てしまうと、しばらくの間、料理で挽肉を使ったり、食べたりするのが嫌になる。それでも、時間の経過とともに平気になるのだが、意外に長引くのが、鼻に残る“臭い”である。
損壊した遺体は、独特な強い臭いを放つ。その臭いを鼻が覚えてしまい、テレビや映画で人が殺されるシーンを見ると、鼻が臭いを思い出してしまうのだ。