あさのあつこさんが感動した3冊
累計発行部数1000万部の名作『バッテリー』をはじめ、多くの青春小説を世に届けてきた作家・あさのあつこさんは、本に救われた過去を振り返る。
「10代って、絶望する年代なんですよね。自分を閉ざし、逃げ場がないと感じてしまう。そのとき、本に“扉はあるよ”と教えてもらって、私は生き延びることができた。大げさではなく本当にそう思ってるんです」
なかでも、「10代で出会った衝撃作であり、宝物」と語るのが、モームの自伝的長編小説、『人間の絆』。
■『人間の絆』(サマセット・モーム 著/新潮社)
幼くして両親を亡くし牧師の叔父夫婦に育てられた少年。足の障害というコンプレックスを抱え、挫折を繰り返しながらも医者を志す……。魂の成熟を描いた長編小説。
「冒頭で母親が亡くなるんです。無邪気に笑う幼いわが子と、涙する母の別れ。明け方の曇り空で陰鬱な雰囲気なのに、なぜこんなにも美しいんだろう、と。物語に対して“おもしろさ”ではなく、“美しさ”を感じた初めての作品でした」
同作は主人公の9歳から30歳までの人生を描いたもの。さまざまな人物が複雑に絡み合いながら登場するが、特に印象に残ったのは、
「ミルドレッドという娼婦です。ひとりで生きて、ひとりで死ぬという意志が強く、武家の女のような格好よさに魅了されました」
恋のために狂って人を殺す人、身を売る女、すべてを引き受けて死にゆく者。人の鮮やかさや多様さを知り、本、人、世界に対する認識が一変したという。