「『同意権』もないのに、避難計画を作れというのはおかしな話」
「福島事故を受けて、原発から半径30キロの自治体にまで拡大して避難計画の策定が義務付けられました。(原発の稼働や停止に事前同意する)『同意権』も与えられていないのに、避難計画を作れというのはおかしな話。30キロ圏まで危ないというなら、立地自治体だけでなく当然、周辺自治体にも同意権が必要でしょう」
大間原発は前述のMOX燃料のみで発電する、世界初の『フルMOX原発』だ。MOX燃料は危険性の高いプルトニウムを使うことに加え、燃料棒内で高温化して破損が生じる恐れがあることを海外の科学者らが指摘している。
「使用済み核燃料をどうするのか。大間原発には20年しか保管できない。六ヶ所の再処理工場は頓挫しているのに、とにかく原発を動かすことありきで計画が進められている」
避難が難しいという地形的な問題もある。
「道北に向かう国道5号はゴールデンウィークでさえ大渋滞する。まして原発事故が起きて、いっせいに逃げ出したら、身動きが取れない。真冬だったらどうするのか。介護の必要なお年寄りだったら? どういうときにどこまで逃げればいいのか、Jパワーも国もまるで説明しません。避難計画を立てようがない」
「原発事故が起きたら国は自治体を切り捨てる」
原発は国のエネルギー政策として進められてきたが、いったん事故が起きれば、避難や住民への対応は自治体がやらざるを得ない。コミュニティーを失った人々の苦しみや悲しみを、工藤市長は福島県南相馬市と浪江町を訪れたときに、目の当たりにしたという。
「原発事故が起きたら国は自治体を切り捨てる。助けにも来ない。私も安全神話を信じていたひとりですが、福島の事故をとおして、そう思い知りました」
このように話す工藤市長は、いわゆる「脱原発市長」ではない。裁判の争点も、あくまで大間原発の建設凍結と、安全でない原発に対しNo.と言える権利だ。
「脱原発を標榜すると意見が割れて、分断が起きる。誰もが最低限、賛同しやすい争点にしぼって裁判を闘っている。黙って泣き寝入りするわけにはいかない」