ただ、臨時会では賛成議員から意見が出なかった。そのことに佐藤和隆さんは「違和感を覚えました」と話す。
「控訴は認められた権利ですが、理由が納得できません。“先生たちに重荷”“先生の遺族に負担”など、亡くなった先生たちの名誉回復のためと思えてなりません。亡くなった子どもたちとその遺族のことは話にあがらなかった」
子どもが亡くなったことの重み、遺族への配慮が感じられないと憤る。
「これでは子どもたちの命が危なくても先生は自分の身の安全を確保して逃げてもいいととらえられかねません。子どもの命は誰が守ればいいのですか」(前出・佐藤和隆さん)
今野さんは「怒りしかありません」と感情を高ぶらせた。
「(控訴の案件は)市議会では可決されると思っていました。賛成討論がないのは作戦で、あえて言わなかったのではないでしょうか。選挙で1票を投じた議員が賛成に回ったという遺族もいて、かなりショックを受けていました」
石巻市に続き宮城県でも控訴の方針
宮城県も石巻市に同調して控訴する方針を示した。村井嘉浩知事は10月31日の会見で「教職員はあの段階で知り得る限りの情報で最大の選択をしたと考えています。判決は教員の責任を重くしてしまっているという点がたいへん残念に感じている」と述べた。
遺族は、今後も裁判で過酷な闘いを続けることになる。
1審の勝訴によって「(健太くんと)やっと同じ墓に入れる」と話していた佐藤美広さん。控訴が決まった直後、声を詰まらせながらも仏壇の息子に語りかけた。
「健太、もう少し頑張んないといけない……」
<プロフィール>
渋井哲也
長野日報社の記者を経てフリーに。若者の生きづらさ、自殺、依存症、ネットコミュニケーション、東日本大震災の被災地取材も続ける。新刊『絆って言うな!』(皓星社)