あれをやらないと。これもしなくちゃ。常に会社のことを考える日々。適当に手を抜く部下への怒りも湧いてきた。私は激務にさらされているのに、ずるい。
「同じ職場にいても全員が忙しかったわけじゃない。定時で帰っている人もいた。できる人材がいなかったというのもあるけれど、上司は私に任せきりでした」
あるとき、佳奈さんは身体が動かなくなっていた。メールの返信を打つこともできない。
「ずっと体調が悪かったのに無理を重ねていた。顔色が青白いとしょっちゅう指摘されていました」
限界だった。過労により今年の10月から1か月、休職することが決まった。
「身体を壊したことで、キャリアや働き方そのものを見直すきっかけになった。休職期間が明けたら、自宅勤務の働き方に切り替えようかと思っています」
「3年は子どもをつくらない」と口約束させられた
回り道をした末に、新たな一歩を踏み出したのが安藤みちるさん(29=仮名)だ。作業療法士として整形外科のあるクリニックへ就職。大学卒業後に専門学校へ通い直して資格を取り、昨年から働き始めた。スポーツをやっていたとき、ケガで苦労した経験から選んだ職業。だが、みちるさんは今、職場環境に頭を抱えている。原因は院長だ。
思い返せば、面接の時点で兆候はあった。院長から「結婚は? 子どもは?」と執拗に聞かれたみちるさん。「すぐにつくる気はないけれど、ゆくゆくは……」とぼかして答えたら、のちに直属の上司となる部長から電話が。少なくとも3年は働いてほしいから、「3年は子どもをつくらない」と口約束をさせられた。
「育休を経て今は時短勤務をしている先輩もいますが、働きづらそうで。ナースはみんな、子どもができたら辞めています」
病院勤務は忙しい。8時前に出勤、患者のリハビリをする傍らカルテを書いたり、医療器具を片づけたり。患者対応の合間に掃除をして、1日に5〜6回は洗濯機を回す。終業時間で仕事が終わることはまずない。残業を終えると帰宅は21時過ぎ。みなし残業として給与に含まれているので、実質的に残業代は出ない。