母をデイサービスに送り出し、週1回は病院へ連れて行くのも相川さんの「仕事」だ。母との生活を支えるには手取り20万円程度はなければ厳しい。条件を満たす再就職先は、なかなか見つからなかった。
1年にわたる求職活動の末、知人の紹介で現在の職場に勤めることができた。契約社員だが、派遣のころと大差は感じない。
「子育て中の女性が多い環境ということもあって融通はききます。母の介護があることを伝えているので午後から遅れて出社したり、複数の病院へ連れて行くのに、週1回は休めたり」
相川さんの境遇に上司は一見、理解を示してくれている。それでも「実は快く思っていないのだろうな」と感じる場面は多い。
ゆくゆくは会社を辞めて家で仕事ができるようにしたい、と相川さん。
「(特定企業ではなく)会社そのものを信用できない。働く人を理不尽に扱って大切にしないくせに、何がワークライフバランスだよ、女性活躍だよと思いますね。なにも贅沢させてくれと言っているわけじゃない。普通に働いて、普通に暮らせる社会になってほしいです」
増え続けていく非正規の現状とは
女性の労働問題に詳しい弁護士・中野麻美さんは、NPO『派遣労働ネットワーク』で理事長を務めており、13年に派遣社員を対象にアンケート調査を実施している。それによると、
「平均時給が東京で1339円。全国で1179円です。それでも70%が“生活は苦しい”と答えています。現在、困っていることのトップが“仕事の割に合わない待遇・賃金・福利厚生”。賃金に満足していません。
では、どう生活をやりくりしているか。節約生活が72%、貯金の取り崩しが28%。Wワーク16%。保険料を減免したり、家賃が払えず滞納しているとの回答もありました」
低賃金はもちろんだが、いつクビを切られるかわからない不安定な働き方も非正規労働の特徴だ。
「アンケートを見ると、契約期間は1か月未満が2%、1か月が8%、2か月が6%、3か月が30%という状況。だから仕事をかけもちして長時間労働する非正規は多い。弁当の下ごしらえや深夜営業のレストランといった、女性の深夜労働もかなり増えています」
正社員と非正規の格差は、前述した、安倍政権による働き方改革でも是正の対象になっている。
「格差があったのでは力の発揮が抑制されてしまうし、自分を大事にできない労働条件のもとでは非効率になる。制度改革をやるのは、待遇格差を縮めて非正規から正規への転換を図っていく大きな流れに乗ったということ。あまり悲観的になる必要はありません」