演劇の天才少女・北島マヤの成長を波瀾万丈に描き続けている『ガラスの仮面』。ストーリー上の時間経過はまだ7年ほどだが、連載開始から、はや40年! 2012年に単行本49巻が発行され、現在ファンは首を長くして50巻を待っているところだ。

10年ほど前から、“私はもう75歳。結末を見ないまま死ぬのは心残り”などと切実な手紙が届くようになって、申し訳ない気持ちはあるんです

 と、作者の美内すずえさん(65)。描き始めた当時は連載が1年以上続くマンガは珍しい時代で、「まさか人生の大半をこのキャラクターたちと過ごすとは、夢にも思っていなかった」と振り返る。

劇中劇の台本も書き 単行本は描き下ろし!

 

『ガラスの仮面』がこれほどの“ご長寿”となった最大の理由は、どうやら美内さんの手を抜けない性格にあるらしい!?

 劇中に、マヤやライバルである亜弓の見せ場となる演劇シーンがあるのだが、これまで描かれた劇中劇の数は29本。稽古から本番まで圧巻の迫力で、かつ読み切り作品並みのボリュームで盛り込まれている。しかもその裏で、美内さんはすべての芝居を実際に舞台で演じられるよう、台本を完成させているというのだ

「そこからマヤやライバルの亜弓がどのような演技をするのか考えて、シーンを抜粋します。原作があるものはまだいいのですが、オリジナルの劇は将来、マンガにしようと取っておいたアイデアを“仕方ない!”と使ったりして、台本を書くのにかなり時間がかかってしまう」

 もうひとつ驚くのが、マンガ誌の連載と単行本では大筋の流れは同じでも、内容が違うこと

「連載は1話ずつ起承転結があって、最後は“絶対に続きを読みたい”と思ってもらえる、引きの強い内容で終わらせています。単行本になるとこのアップダウンが多すぎて、続けて何冊も読むと疲れてしまう(笑)。25巻でそこに手を入れ始めたら、不満の残るシーンも描き直すようになって、いつの間にか1冊描き下ろすようになりました。でも、約200ページを没頭して描くのが楽しいんです。身体はボロボロですし、編集者はハラハラしていますけどね」

速水真澄の熱狂的ファンから届くファンレター

 40年の間に何度か舞台化され、テレビアニメやドラマになったうえに、パロディーまで作られ、『ガラスの仮面』の世界はマンガの枠を超えて大きく広がってきた。

坂東玉三郎さんや蜷川幸雄さんが舞台を演出してくださったり、劇中劇の『紅天女』を人間国宝になられた梅若玄祥さんがお能として演じてくれたり、本当に幸せな作品。私には読者がイメージと違うと感じないことが大事なので、キャスティングと台本までチェックさせてもらいますが、その先はただ見て楽しんでいます。

 ここまで続けてこられたのは、読者が年代を超えて作品を愛してくださるからこそ。サイン会を開くと親子連れも多くて、そのうちに孫までの3代となる時期も遠くないかもしれません(笑)」

 読者の思い入れも深く、特にマヤが恋する芸能事務所の若社長・速水真澄の熱狂的ファンが多いため、連載で真澄がマヤに冷たくするシーンがあると、非難ごうごうの手紙が届くそう。

真澄の婚約者である紫織は特に嫌われていて、登場カットをビリビリに破いたファンレター(?)も来ました。アシスタントの子たちまで、紫織のドレスにいつまでもスクリーントーンを貼ってくれず、“嫌いだから”と全員で放置する。それ以来、仕事中の特定のキャラクターに対するイジメを禁止してます(笑)。読者のみなさんも、もう少し先の展開まで待ってください」