「巨泉流」人生の愉しみ方
1990年春、巨泉さんはレギュラー番組をすべて降板し、56歳で“セミリタイア”宣言をした。仕事をセーブして、生活の質を重視する生き方を実践したのだ。
「本当の幸せは名声を得ることでも、お金をもうけることでもなくて、自分の生きたい後半生を生きること」
そう巨泉さんは40万部のベストセラーとなった著書『巨泉 人生の選択』の中でも語っている。春・秋は日本、夏はカナダ、冬はニュージーランド、オーストラリアと、一年を通して気候のいい場所を巡り、ゴルフ、釣り、競馬、美術鑑賞などを堪能した。
「でも、そのうち巨泉さんはセミリタイアは飽きたと言い出した(笑)」
小倉さんにはこっそり“少し早すぎたかもしれないな……”と話していたとか。
「その後も番組にゲスト出演していましたけど、そのときも“出てやるよ”と(笑)。それでも声がかかるのが巨泉さんでした」
寿々子さんがセミリタイア後の和やかな日常を語ってくれた。
「家ではやさしい人でした。可愛かったですよ、褒めるとダンスしてくれて(笑)。
“哲がいないときに美味しいワイン飲もうな”って(笑)。近所に住む哲也さんが仕事帰りに寄ってくれて、ときどき一緒に食事をしていたんです。主人が“今日は哲が来ないから美味しいワイン開けちゃおう”とナイショで秘蔵のワインを開けてしまうのですが、結局空きびんを始末できないままにしていて、哲也さんに見つかっちゃって。“また俺抜きだよ、何それ?”と(笑)」
巨泉さんは亡くなる3時間前、面会にきたチカさんの手を3回強く握ったという。最期は寿々子さんと哲也さん夫妻の見守る中、眠ったまま静かに息を引き取った。
テレビが主役だった時代、黒ぶちメガネにえびす顔のその人は、しゃれたジョークと立ち振る舞いで大人の世界を見せてくれた。
「好きに生きてこそ人生だ!」
その自身の言葉どおり、私たちが憧れる“自分の思ったとおりに生きること”を体現した人だった。
*参考文献:『巨泉 人生の選択』(講談社)『この道』(東京新聞)
*豊田チカチャリティー福島の子供たちへ「Big fountain of humanity」~パパ、ジャズっていいね~ 3月22日(水)TOKYO FM HALL
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