千代田区三番町の隠れ家レストラン『さとう』でも、6年ほど前から月に1、2回のランチを楽しんだ。
「お昼ごろにひとりで来て、ハウスワインを1杯飲んで魚介系のリゾットを食べて静かに帰られていました。新聞などでがんであることを知ったのですが、なんとなく身体の調子は悪いのかなとは思っていました。最後にいらしたのは去年の秋ごろのお昼だったと思います」(従業員)
お酒が大好きだったかまやつさん。ホテルオークラ別館のスコティッシュバー『バー ハイランダー』の常連でもあった。マネージャーの萩俊一氏に聞くと、
「本館にあったころからなので、もう何十年も通っていただいていました。ムッシュは夜6時や7時と、比較的早い時間にいらっしゃることが多かったですね。ひとりで来られることが多く、といってもムッシュ同様、古くからのお客様とは顔なじみで、カウンターでウイスキーやスピリッツ、ワインを飲みながらお話しされていました。
言い方は悪いですが、本当に普通の人。気さくで飾りなく、いつもニコニコして私や若いスタッフにも気軽に話しかけてくださり、優しく接してくださいました。私たちはバーともども、とてもかわいがってもらいました」
取材をしたどの店でも、「いつもニコニコしていた」かまやつさん。そんな彼がもうひとつ、満面の笑みを見せた愛すべき“名店”があった。
それは毎年正月に新年会が行われている堺の自宅だった。
「正月に『カレーうどんを食べる会』という会があって、従妹の森山良子さんに付き添われて、かまやつさんがいらしたんです。彼女に支えられながらも、しっかりとご自身の足で歩かれていました。
森山さんは“いい療法があったら何でもやってみたい”と、それまでの治療方法を変えて食事療法に切り替えたそうで、かまやつさんの顔色も悪くはなかったです。堺さんは気遣いを感じさせない自然な様子で、かまやつさんの隣にいらしてお話しして笑い合っていました」(居合わせた客)
ザ・スパイダースの中でも、穏やかな性格から、“緩衝材”のような役割だったというかまやつさん。そんな彼には自然と、「我が良き友」が集まっていたのだった。