「私たちの大切な人じゃないですか」
さらに北へ──。同県大槌町。震災の死者は803人、震災関連死51人、行方不明者423人。
曹洞宗・吉祥寺の高橋英悟住職(44)は’14年に続く2度目の取材だ。当時、身元不明の遺骨20柱を預かっており、いずれは高台の海と川と町を見渡す場所に安置したいと話していた。その条件にかなう城山公園の高台に納骨堂が建立され、今年2月19日に納骨式が行われた。同町は被災3県の市町村で身元不明遺骨が最も多く、3寺院に分けて計70柱の遺骨を預かってきた。
「行方不明者のご家族が3つの寺をお参りする姿を見てきましたので、ひとつの場所で手を合わせることができるようになってよかったと思っています。納骨堂はとても素敵なつくりで、毎年3月11日午後2時46分になると、おひさまの光がガラス窓から差し込むんです」(高橋住職)
高橋住職は、前出の芝崎住職が立ち上げた『釜石仏教会』で事務局長を務める。納骨堂の場所について粘り強く行政を説得したのは、高橋住職が所属する同会大槌支部だった。こだわったのには理由がある。
「私たち人間は、よくも悪くも忘れてしまう。津波がきたことさえ、ふだんは忘れられたように感じます。だからこそ海の様子が見えて、川の様子が見えて、町の様子がわかる場所でなければいけない。津波がきたら避難道路から納骨堂を目指すんです」
立地の決定には紆余曲折があった。当初、同町は町有地の火葬場につくろうとした。町と仏教会で話し合いを進める中、いったんはこの場所に決まった。しかし、町長選・町議選を挟んだため、事業見直しで振り出しに。なぜこの場所でなければならないのか議会に出向いて説明を繰り返した。「命を守るためなんです」と訴えた。
生き残るための場所にお骨があったら怖い。気持ちが悪い。そんな声もあった。
「私たちは“何を言っているんだ!”と怒りました。まだ名前は取り戻せていないけれど、私たちの大切な人じゃないですか。生きたくても生きられなかった命じゃないですか。何が気持ち悪いんですか。心を同じくする熱血行政マンも真剣に向き合ってくれました。熱意は伝わるんですね」
前回’14年の取材直後、身元が判明した女性の遺骨があった。遺族が迎えに来てうれしそうに「お世話になりました」と挨拶してくれたという。
同町では、骨箱のまま納骨堂に安置し、土に還す期限は決めていない。
「もっと技術が進歩して、ほかの遺骨の身元もわかるようになるかもしれませんよね」
納骨式の日、高橋住職は一緒に暮らしてきた19柱の遺骨に、ひとつひとつ手を添えてこう話しかけた。
「津波を知らぬ未来の人々をお守りください」