祖父の死をきっかけに──
犯行現場の空き家も、祖父との思い出の家だった。
近隣に住む70代の女性が明かす。
「あそこの家には以前、亡くなった男子学生のじいさんが住んでいてね。2年前くらいに病気で倒れて、空き家だったんだよ。そのじいさんも昨年10月に亡くなったの」
子どものころ父親に連れられて祖父の家に来て一緒に畑仕事をやっていた姿を、近所の住民は記憶している。小学校、中学校、そして高校は県内屈指の進学校に入学し陸上部に所属して活動していたころにも、その姿は近所の人に目撃されていた。
市内に住む50代の男性は、
「同級生のお母さんから聞きましたけど、どうもいじめられていたみたいなんですよ。人間関係のトラブルが進学校でもあるんですね」
勉強のギアを上げなければならない時期に、学校に行けない。受験生にとっては計り知れない痛手だ。当然、成績も下がる一方。その結果、男子学生は浪人生活を2年間送ることになってしまった。
救いとなったのは、祖父の家だった。
子どものころのように畑仕事を手伝ううちに、農学部への進学を考えるようになったという。
信州大学での前期の成績は平均点を越えていたが、祖父が亡くなった昨年10月以降には学業に身が入らなくなり、成績も下降したという。
いじめに不登校、浪人生活の末に大学生になったが、心の支えだった祖父の死。立て続けに味わった衝撃が、犯行に向かわせたのだろうか。
思うような人生を歩めないことへの不満
非常に不可解な事件だ、ととらえる前出・碓井教授は、
「首から上を集中的に攻撃していることから、強い殺意がある。短時間で殺害し、自殺した。犯行前から、殺すこと、そして死ぬことを決めていたのではないでしょうか」
と推理する。そして、
「異常犯罪を起こす人には、おじいちゃん子、おばあちゃん子が見受けられます。男子学生も祖父を慕っていた。祖父は、彼の唯一の理解者だったのかもしれませんね。その祖父が亡くなったことで、不安定になり、犯行の引き金になった可能性は考えられますよね」
さらに自暴自棄になっていたのではと碓井教授は話す。
「通り魔事件の犯人は、犯行後に自殺、捕まっても死刑を望む場合が多いんです。結局自分はどうなってもいいと思っているからこそ、捕まることが怖くない。今回も自分の思うような人生を歩めないことへの不満が根本にはあったのかもしれませんね」
13日に通夜、14日には告別式が営まれ、参列者の涙に見送られた未沙さん。遺族の悲しみは深く、未沙さんの祖父は『週刊女性』の問いかけに対し、
「気が抜けてしまって、今は何も言葉にすることができません。申し訳ない」
と、とぎれとぎれに言葉をつないでくれた。
外出先から戻ってきた男子学生の母親は、何を尋ねても無言を貫いた。
警察は男子学生の実家、松本市内の下宿を家宅捜索した。パソコンやスマホも残されているが、どこまで真相に迫れるのか。遺族の無念を晴らすためにも、全容解明がせめてもの供養になる。