入学、入社、異動、引っ越し……新たな出会いが多い春。初めましての挨拶で「何て読むの、この名字?」なんてシーンも多いはず。日本人の誰もが持ちながら、あまりに千差万別。たかが名字、されど名字! 姓氏研究家の森岡浩さんに“名字のナルホド”を聞いてみました。
そもそも名字とは?
結婚や養子縁組によって途中で名字が変わる人や、芸名や筆名などを使う人もいるが、日本人が戸籍に登録できるのは、名字も名前もひとつずつ。
そんなの当たり前と思いきや、ノーベル平和賞受賞で知られるミャンマー国家顧問、アウン・サン・スー・チーさんは、“アウン”“サン”“スー”“チー”のすべてが名前。なんと、ミャンマーには名字がない。世界をお騒がせ中のアメリカのトランプ大統領のフルネームはドナルド・ジョン・トランプ。“ドナルド”が名前、“ジョン”がミドルネーム、“トランプ”が名字だ。
「要するに名字や名前は、国によって考え方や構造が全然違うんです」(森岡浩さん、以下同)
名字って何種類あるの?
日本人の名字って一体、何種類あるの?
「日本には、おおよそ10数万の名字があるといわれていますが、正確な数はわからないんです。他人の戸籍を見ることはできませんし、5年に1度の国勢調査でも政府は名字の数を数えていないので。ただ、ときどき“日本の名字は世界一多い”と紹介されることもありますが、これは誤り。日本はアメリカ、イタリアに次いで3番目くらいではないかと思います」
名字っていつからあるの?
大昔、邪馬台国を卑弥呼が治めていたころ、日本には名字がなかった。日本史の授業的にはその後、蘇我氏や物部氏などの豪族が登場。当時の有力豪族は、政権内での役割に合わせ、大王家(天皇家)から“姓”を与えられたという。物部は軍事担当、安曇(あずみ)は外交担当など。天皇の血縁者を臣下にした際には、平(たいら)、源(みなもと)、橘(たちばな)などの姓が使われた。
「大化の改新(646年)の功績をたたえ、天智天皇(中大兄皇子)は中臣鎌足に藤原姓を与えています」
藤がつく名字って?
親戚同士は同じ名字であることが多いため“九州のおじさん”“横浜のおばさん”など、住んでいる場所で呼ぶパターンは、あるある。同様に、平安時代以降になると、姓だけでは区別がつかない状態に。そこで、藤原家の中でも、京の九条通りにいるから九条、鷹司(たかつかさ)小路に住んでいるから鷹司などが派生していった。一方、地方に移住した藤原氏は名字に“藤”をつけることが多かったという。伊勢に移った藤原氏なら伊藤、加賀なら加藤、近江なら近藤など。
「伊勢神宮の斎宮寮(さいぐうりょう)に務めた斎藤、木工助(もくのすけ)という官職だった工藤など、仕事と組み合わせるパターンの名字も出てきました」