「体罰は必要か、必要ないか」
深夜1時過ぎのラーメン店で男性2人がビール片手にそんな激論をかわしていた。昨年8月22日のことだ。
ひとりは滋賀県東近江市の市立小に勤務する男性教頭(50)が、やがて興奮し、口論相手の30代の知人男性の頬をビールジョッキでガツン。殴られた男性は顔面打撲と歯冠破折(歯が割れたり欠けること)で全治3か月の重傷を負い、被害届を受けた同県警彦根署は同10月に教頭を傷害の疑いで書類送検した。
教頭は「暴力はいけない」をポリシーとする厳格な教師だったという。
「知人男性は同僚教師ではありません。教師は“いかなる理由があろうとも体罰はいけない”と厳しく指導されています。教頭は酒を飲みながら“子育てに体罰は必要ない”と持論を展開するうちにヒートアップしてしまったようです。暴力をふるってしまったことは残念です」(市教委)
さらに教頭は、書類送検されたことを教育委員会や学校に報告しなかった。本人の言い分によると、「学期途中で抜けると学校運営に支障をきたすので」と説明したという。
県教委は3月30日、傷害事件と報告義務を怠ったことについて停職6か月の処分を告げた。教頭は同日付で依願退職した。
「教頭として若い教員に服務規程を徹底させるなど職務には厳しくあたっていた。常日ごろ、“教職員の不祥事を防ぐためにも、しっかり指導しなければいけない”と言っていた。それだけに“指導する立場でありながら、このような事件を起こして申し訳ありません”と何度も頭を下げていた。処分が出る前から退職を決めていたんでしょう」
と勤務先の校長。
処分を言い渡されて退職を申し出た日、言葉少なに「児童、保護者、校長、職員のみなさまにご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と涙をためて詫びたという。
教頭はお酒が好きだった。本当はビールより焼酎が好きで、酒に強く乱れないタイプだった。事件の日は知人男性2人と飲んでいて、酒の肴のテーマはいつの間にか「体罰」になっていた。
「教頭は“たくさん飲みました”と話している。しかし、なぜ体罰について話すことになったかなど詳細は覚えていないようです」(前出の校長)
退職の翌日、教職員の離任式があり、春休み中に登校してきた全校児童に校長から事情を説明した。
「教頭先生がお辞めになります。みなさんに申し訳なかったと言っています。教頭先生はここに来られないので、校長の私が代わりに謝ります」
児童は黙って話を聞いた。
「教頭は“しっかりしなきゃアカンぞ!”などと言葉がきつくなることはあった。でもそれは指導のためで児童や同僚に手をあげたことは1度もない。事件発覚後、一部の保護者から“教頭先生はいつ戻ってこられますか”と温かい言葉をちょうだいした。本人に伝えると“ありがたいことです”と恐縮していた」と校長。
教頭は被害男性に「謝りたい」と話している。しかし、謝罪が受け入れられるかどうかはわからない。実家の農業を手伝う日々を送っている。