「同性愛者=富裕層」説は本当なのか
ただし私自身は、同性愛者富裕層説を素直に信じる気にはとてもなれない。
前記の米国版国勢調査でも言えることだが、統計分析では一見すると相関があるように見えて実は無関係だったなんてこともしばしば起きる。例えば、「同性愛者は大都市圏に多い」と「富裕層は大都市圏に多い」が各々正しければ、同性愛者と富裕との間が本来無関係でも、同性愛者の富裕層比率は高いという分析結果が出てくる。
また、そもそも同性愛者に対する差別を避けようと、自分の立場を偽って国勢調査に応じている人も相当数いるはずで、ならばその信憑性がそもそも疑わしい。
そして、同性愛者富裕層説を真っ向から否定する統計調査も存在する。カナダのマギル大学(McGill University)が同国の2006年センサスを分析したところ、平均収入額は「一般男性>同性愛男性>同性愛女性>一般女性」の順だったという。オーストラリアなどでもほぼ同じ調査結果が発表されている。
女性に限れば確かに同性愛者の所得が高いという結果ではあるが、これはおそらく一般女性が出産育児中に収入が一時的に減少することを反映しているだけで、これをもって同性愛女性の方が経済的に豊かだなんてとても言えまい。
以上のように、まことしやかに流布されている同性愛者富裕説の真実はなはだ曖昧で、「信じるかどうかは貴方次第です」程度の都市伝説だと言わざるを得ない。
従って、当説を真に受けた企業がLGBTマーケティングに果敢に乗り出しても、最後は「そんなこと聞いてないよ〜」と悲鳴を上げたくなるような苦境に陥りかねない。
しかも、前記した約6兆円という数字ばかりが注目されがちだが、「LGBT層の消費規模」と「LGBTの市場規模」とは内容が全く異なることにも注意が必要だ。
有体にいうと、日常生活での消費に関して、LGBT層と一般層との間で大きな差があるわけではない。いや、ほぼ同じで変わらないだろう。喜怒哀楽は消費動機の基本だが、それは生ける者すべてが共通に持っている感情であり、だから一人が笑ったり泣いたりすれば、みんなも笑ったり泣いたりする。
あのアンネフランクも「私たちの人生は一人ひとり違うけれど、されど皆同じ」と言っているし。
それなのに「LGBT層の消費ニーズは特殊だ、理解せよ」と主張する様はとても滑稽に感じるのは私だけ? そもそもマーケティングとは、無理やりにでも新奇性や特異性を強調せざるを得ない因果な仕事なので、仕方ないといえばその通りなのだが……。
そう考えると、LGBT層の消費規模は6兆円だとしても、LGBTであることに起因した消費額は数百億円程度(6兆円の1%だとして600億円)に限定されよう。本音を言えばもっと少ないと考えている。