飛び込む直前に2人が行き来していたベンチとホームのへり。小田急小田原線柿生駅
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鉄道自殺を選ぶ心理とは

 高齢者自殺問題を研究する青森県立保健大学の坂下智恵准教授は自殺理由について、

「健康問題や近親者との死別などによる抑うつ状態、誰とも交流しない孤立状態など、いくつかの理由が重なった複合的な状況が考えられます。

 孤立は心理的にも負担がかかり、自殺をするリスクを高めます。単身世帯でも“孤立”していない人はたくさんいますし、家族と同居していても孤立感を募らせる人もいます」

 鉄道自殺を選ぶことについては、

「模倣自殺が考えられます。報道などで知り、こんな死に方ができるんだ、とまねをしやすくなる。普段は絶対にできないはずですが、追い詰められている人は、飛び込むしか手段がないと思うほどに判断能力が低下しているのです」

 徳島県で自殺防止活動を行うNPO法人『アプローチ会』理事長の勝瀬烈医師は、

「長生きしても寝たきり、病気に悩まされているのはつらいですよね。さらに人間関係、貧困、体調不良などに苦しみ、好転する兆しが見えなかったら悲観してしまいます」

 と高齢者が直面する苦悩を語り、表情を曇らせる。

 自殺する高齢者を救う手立ては、まずは本人の意思、そして周囲のケアによるところが大きい、という。

 勝瀬医師は、

自殺を防止するためには、メンタルを整えること。運動とバランスのとれた食事で健康を維持し、そして周囲とのコミュニケーションや、手助けが欠かせません」

 と話し、具体的には、

「夜はいろいろ考えずに眠り朝起きたらまずは身体を動かす。“貯筋”するように筋肉を作ることも病気の予防になります。家庭菜園やペットを飼ったりするのもいい。花に水をあげるから寝ていられない、ペットの世話がある、と元気を取り戻す人もいます。そして深刻な話はせず、元気? 天気いいねなどと声をかけるだけでいい」

 坂下准教授も周囲のケアを重視し期待を込める。

「60代後半から70代は、身体の機能が衰えてくるので、気をつけたほうがいいかもしれません。変だな、と思ったら、しかるべき機関につなげたり、福祉サービスの申請を手伝ったり、おせっかいだと思われても積極的に関わってもらいたいと思います」

 冒頭の事故現場近くでも、高齢者の切なる声を耳にした。

「年をとれば身体だってあちこち悪くなるし痛くなる。外に出るのもおっくうになる。飛び込み事故は他人事じゃない」と70代女性。

 60代の福祉関係の女性は、「苦しみをうちに秘め、ひとりで耐えている高齢者がいることを社会のみなさんにも知ってほしい」

 ここ数年、減少傾向の自殺者数だが、それでも年間2万2000人弱('16年)が自死という終末を選ぶ。成人の4人に1人が本気で自殺を考えたことがあるとの調査報告も。

 年をとれば誰もが衰える。そこに寄り添う人がいるだけで、救われる人は多い。