やりたくなかったことも頑張りすぎてしまうと…
筆者は、佐藤さんの話を聞いたとき、驚きました。というのも、佐藤さんと非常によく似たある女の子のケースをすでに知っていたからです。
その子は途中まで非の打ち所のない子でした。勉強も運動もよくでき、先生や友達に信頼されていました。塾が行った学力テストで地区の1番になったこともありました。習い事もたくさんやっていて、そのすべてにおいて優秀でした。ところが、ある日すべてを投げ出し、学校にも来なくなりました。
専門家に診てもらったところ、次のようなことを言われました。「彼女は長い間頑張りすぎて疲れてしまい、燃え尽きた状態になっている。本当はやりたくなかったことも頑張りすぎてしまった。そのストレスが今一気に出ている。でも、今出たのはある意味よいことだ。やり直しは十分可能だから。後になればなるほど大変になる」。
親はそれを聞いてショックを受けました。今まで、その子は何かを嫌と言ったことはなかったからです。そして、やり始めたものは何でもすぐうまくなり、良い成績を取ることができました。ですから、親は本人も喜んでいると思って、あれもこれもといろいろやらせてきたのです。親は決して押し付けているつもりはなかったのです。
佐藤さんの母親も、自分が子どもを苦しめているということに気づいていなかったと思います。中学受験も子どもが自ら「やりたい」と言い出したと思っているでしょうし、体操部に入ることも強制したわけではないからです。でも、見方を変えれば、それだけ巧妙だったともいえます。というのも、子どもがそう言い出すようにうまく仕向けてきたからです。
子どもを親の自己実現のために利用してはいけない
特に女の子に多いのですが、親の気持ちをよく察知して自ら先回りして親の期待に添うような行動をする子がけっこういます。そして、これもまた女の子に多いのですが、まじめで自己管理力が高い子はイヤと言わずに頑張ってしまいます。その分そのストレスは強くなり、弊害がいろいろな形で出ることになります。
佐藤さんのように子どもらしい明るさがなくなって暗い気持ちになったり、件(くだん)の女の子のように、突然すべてを投げ出してしまうこともあります。あるいは、はけ口を求めて弟や妹をいじめたり、急に親に猛反発したりすることもあります。
つねに自分のやりたいことを抑えて成長した結果、「自分が本当にやりたいことがわからない」「自分は何のために生きているのかわからない」という状態になり、鬱屈とした気持ちで長く苦しむこともあります。
佐藤さんは、鈴木さんと知り合ったおかげで自分を見つめ直すきっかけができました。そして、1度爆発することで親の過干渉から抜け出すことができ、自分が本当にやりたいことを見つけることもできました。
でも、もし鈴木さんと出会わなかったら、そして、爆発しないままでいたらどうなっていたでしょうか?ずっと鬱屈とした状態のまま苦しんでいたかもしれません。
みなさんはこのような微妙な過干渉をしていませんか?子どもの人生は子どものものですから、親が奪ってはいけません。子どもを親のコピーにしたり、親の自己実現のために利用したりしてはいけないのです。
子ども自身がやりたがることを応援してあげましょう。そして、自分がやりたいことを自分で見つけて、どんどんやっていける人生にしてあげてください。
<著者プロフィール>親野 智可等(おやの・ちから)◎教育評論家 長年の教師経験をもとにメールマガジン「親力で決まる子供の将来」を発行。読者数は4万5千人を越え、教育系メルマガとして最大規模を誇る。『「自分でグングン伸びる子」が育つ親の習慣』など、ベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。全国各地の小・中学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会でも大人気。ブログ「親力講座」もぞくぞく更新中。