“良識の府”といわれる参議院の法務委員会で組織犯罪処罰法改正案(以下、共謀罪法案)が審議入りした5月30日、民進党の有田芳生参院議員は安倍首相を問い詰めた。

「1995年、地下鉄サリン事件が起きたときに共謀罪法案はありませんでしたけれども、オウム真理教はいつ一変したんでしょうか」

 安倍首相が2月の衆院予算委でオウムを例に挙げ、「宗教法人から犯罪集団に一変したので(共謀罪の)適用対象となる」などと答弁したことが質問の背景にあった。オウム事件に詳しいジャーナリストでもある有田氏にとって、都合よくオウムを引き合いに出すのは許せなかったのだろう。

市民監視社会の恐怖と不安

 安倍首相は、

「当時はまだこの法律がないわけですから、いつの段階で組織的犯罪集団になったかという観点で捜査をしておらず、いまここで私がにわかにお答えすることはできない」

 と、逃げの一手だった。

 有田氏は「一変なんかしていない。ずっと宗教団体として活動しながら凶悪事件を起こしたんです」などと反論し、事件とは関係ない多くの信者まで一網打尽にするのかと問いただした。しかし、答弁する側には誠実に説明しようとする“良識”がなく、話は噛み合わなかった。

 そんな安倍政権に不信感をつのらせる15の市民団体などが5月31日夕、東京・日比谷野外音楽堂で『5・31共謀罪法案の廃案を求める市民の集い』を開いた。参加者は主催者発表で約4700人。会場に入りきらず、場外でスピーチを聞く参加者が出るほど熱気ムンムンだった。

 出席した野党議員を含め、登壇者からは市民監視社会への恐怖と不安、怒りがストレートに語られた。同法案が成立した場合、捜査機関の判断によっては市民団体も「組織的犯罪集団」とみなされるおそれがある。認定されれば構成メンバーの「共謀」を立証するため証拠収集が始まる。

 元検事の民進党・山尾志桜里衆院議員は「LINEやメール、ツイッター、スタンプまでもが証拠になって私たちの自由が丸裸にされる」と訴えた。

「私は検事をやっていました。一般の方々を捜査対象とし、悪いことをした人なのかを見分けるため、警察に尾行、張り込み、メールの履歴を見ることをお願いしてきました。でも、そこには躊躇があった。

 結果的に犯罪じゃなかったときに申し訳ないという心の痛みです。安倍首相はこの共謀罪で捜査機関の躊躇をなくすと答弁しました。権力が躊躇をなくしたとき、国民は自由をなくします。だから私たちはこの法案を絶対通すわけにはいかないんです」(山尾氏)

 共謀罪の対象犯罪は277にものぼる。組織の複数の構成メンバーが犯行計画に合意し、資金調達など何らかの犯行準備を行えば、犯行に着手したかどうかは問わず、処罰されるようになる。