「ボクシングを通じて、優しくて強い男になりたい」
そうはにかむのは、ボクシング現WBO世界フライ級チャンピオン・田中恒成選手。まだあどけなさの残る笑顔からは想像できないが、デビューから世界最速の12戦、国内では史上最年少で3階級制覇を成し遂げた、日本ボクシング界の至宝だ。
「そのわりには、いまいち知名度がないですし、普段は気づかれることも少ないんです(笑)。でも、調子に乗らずコツコツやるしかないですね」
と謙遜するが、“田中恒成”というボクサーは、ただ単にボクシングが強いだけの選手ではない。心の強さにこそ、強さの秘密が隠されている。
実は、小学校入学を間近に控えた6歳のとき、2万人に1人が発症する「ペルテス病」という、大腿骨骨頭が壊死してしまう原因不明の難病を患った過去がある。
「歩き方がおかしかったり、痛みを伴ったりしたので、変だなって。走ったり運動するのが大好きだったので、気持ちとは逆に、自由に動けないもどかしさがありました」(田中選手、以下同)
1か月の入院後、治療として装具を右足に1年間つけての生活を強いられる。初めての運動会では松葉杖を使いながら、徒競走にも臨んだ。 そのせいでクラスメートからバカにされることもあったが、じっと耐え続けた。
「幼稚園のとき、父のすすめで空手を始めたのですが、装具をつけている間も毎日毎日腕立て伏せやトレーニング。周りにバカにされるより練習のほうがきつかった(苦笑)。くじける暇がなかったです」