「第2波の真っただ中にいると認識している」
5月末、現状をそう伝えたのは福岡・北九州市の北橋健治市長。6月3日の会見では、「最悪の状況は脱しつつあるように見える」と希望を込め修正したが、全国的に感染拡大が落ち着く傾向の中で起きた、人口90万人の地方都市の感染者増大“北九州ショック”は、医療対策関係者に衝撃を与えた。
新型コロナウイルスを「見える化」
政府の諮問委員会の尾身茂会長は、いくつかの地域で感染が増えてきていることに、
「これからも間違いなくほかの県でもあると考えていただければ」
と“第2、第3の北九州”の出現に警鐘を鳴らした。
4月30日~5月22日まで、ひとりの感染者も出なかった北九州市だが、23日以降に感染者が急増。6月5日まで14日連続、合わせて135人の感染者が確認された。
5月31日には再開したばかりの市内の小学校で新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生。新たに小中学生6人の感染が判明し、事態の深刻さが浮き彫りになった。
北九州市危機管理参与も務める「救急振興財団・救急救命九州研修所」の郡山一明教授は北九州市で感染者が増えたことについて、
「1つ目は、高齢者の割合が多いということ。新型コロナウイルスが多い政令指定都市の中でも特に高い30・5%です」
高齢者は重症化のリスクが高いというデータもある。
「2つ目に医療施設が多く、周りの小さな市町村から重症患者が市内の医療機関に搬送されてきていること。ほかの地域から運ばれてきた患者がコロナだったこともありました。北九州市はもともと、5市が合併した市で、伝統的に医療機関が豊富です。昔から地域愛を持っているので、医療機関の連携があります」
と地域独特の事情を語る。
「3つ目は、感染力がある患者による感染拡大があったことです。コロナは、発症前がいちばん感染力が強い。症状が出てから入院した人は、すでに外で周囲に感染させている可能性が高い」
グローバルヘルスケアクリニックの水野泰孝院長はさらに4つ目の理由として、
「ずっと感染者が確認されなかったのは、水面下での感染者の存在は否定できませんが、外部から入ってきた可能性が高いと思われます。県外からの出張者から広がった、もしくは市内の人が県外で感染してきたか」
とウイルスが運ばれた可能性を指摘する。
しかし、最大の理由は検査方針にあったという。
「PCR検査をしっかりやっていたことが大きいと思います。北九州市は4月ごろから、PCR検査をたくさんできるように民間企業と組んでいました」(前出・郡山教授)
北九州市は、徹底的な検査で潜在的に潜んでいたコロナを「見える化」し、感染を防ぐという対策を打ち出したのだ。
こうした市の対応を称賛しているのは「医療ガバナンス研究所」理事長の上昌広医師。
「無症状の人でも感染者と濃厚接触した人はPCR検査にかけた。感染症なので、診断・隔離が基本なんです。ほかの自治体も北九州を見習うべきだと思います」
ほかの自治体も同じようにできないのか。
「これまで、厚生労働省がPCR検査を規制してきたんですよ。自治体はみんな厚労省の顔色をうかがっている。ダメなのは首都圏です。副知事や衛生部長に厚労省の官僚が多く、霞が関の顔色をうかがって、自分で動かない」(上医師)