目次
Page 1
ー 入居者の3人に1人がコロナに感染
Page 2
ー 「無低には行きたくありません」と伝えたが…
Page 3
ー 高校卒業後、新聞販売店で働き始めた
Page 4
ー 民間の支援組織にできることが、なぜ行政にできない

 現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

入居者の3人に1人がコロナに感染

 定員10人の居室に、カーテンで仕切られただけの2段ベッドが並ぶ。コロナ禍にもかかわらず、生活保護利用者などを対象にした「無料低額宿泊所」(無低)は、相部屋が珍しくない。感染第6波に見舞われた今冬の早朝。入居者のナオトさん(仮名、23歳)は誰かの呼びかける声で起こされた。カーテンを開けると、目の前には警察官の姿が──。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 驚くナオトさんに警察官は、すぐそばの共有スペースで入居者の高齢男性が亡くなっているのが見つかったと告げた。何か知っていることがあれば、教えてほしいという。

 ナオトさんは、その男性が数日前から歩くことができず、廊下をはいずりながら移動していたり、壁際にうずくまったりしている姿を見ていた。明らかに体調が悪そうで、前日の深夜はベッドからうめき声も聞こえた。

「(無低の)職員から病院に行くよう言われていましたが、拒んでいたようです。僕も『大丈夫ですか』と声をかけたのですが……」

 “隣人”が人知れず死んだと思うと怖かった。入居者の中には遺体を見に行く人もいたが、ナオトさんは警察官の聞き取りに答えた後、しばらくベッドから出ることができなかった。後になって、職員から男性の死因はコロナ感染だと聞いた。

 このころ、この無低では入居者の3人に1人がコロナに感染していた。一部は専用の宿泊施設に移ったが、男性が亡くなった数日後には、別の入居者がベッドで冷たくなっているのが見つかった。やはりコロナが原因だったという。