病気や経済的な理由を除き、年間30日以上登校しない子どもの状態を不登校という。この9年間は増加のいっぽうで、2021年度には小学校で8万1498人、中学校では16万3442人を記録した。中学生の場合、なんと20人に1人が不登校の状態にあるのだ(※2022年10月文部科学省の調査より)。
全日制高校出身者との格差
こうした子どもたちの受け皿となっているのが、定時制高校だが、高校出身者に対して、全日制高校出身者とは、その後の進路や評価に格差があることは否めない。
「世の中は、就職も社会通念も“普通の学校”つまりは全日制高校を中心に回っています。定時制ではないんです。
一部でよく言われる“子どもには学校に行かない権利がある”“他人と比べる必要はない”という言葉も、一見、不登校の生徒に寄り添っているように見えますが、学力やその後の進路の問題をなにひとつ解決できていません」
こう語る藤井健人さん(30歳)は元不登校。定時制高校を経て夜間高校の教師となり、この4月、文部科学省に入省、キャリア官僚となった。この転身について藤井さんは言う。
「元不登校の定時制高校出身者として、自分がしなければならないことはなにかを考えての入省。このような人生を生きたいと望んで選択したわけでは、絶対にない」
“不登校の子どもたちにも、全日制と同じ未来を─!”は、元不登校にして定時制高校出身者の、魂からの叫びなのだ─。
埼玉県で、祖父母と両親の5人家族だった藤井さん。不登校となったのは、小学校4年のころ。きっかけは祖父と祖母が発病。両親もその介護疲れから持病が悪化、と藤井さんを除く家族全員が病気になってしまったことだった。
藤井さんが語り始める。
「父親も仕事を退職し、生活は祖父母の年金と両親の障害年金、生命保険からの保険金などで賄われる状態になりました。そんな中での両親といえば、生活費をめぐってのケンカが絶えない状態でした」
通っていた小学校は、朝は集団登校が決まりだった。そこで知り合った友達と接するうち、“うちの家庭はちょっと特殊なのでは……?”と思うことが多くなった。
例えば仲良くなった友達の家に遊びに行く。友達のお父さんは、家にはいない。仕事に行っているからだ。
「それなのに、うちでは父が常に家にいる。“おまえのお父さんはなんでいつも家にいるの?”と思われたくないし、いる理由を聞かれたくない」“自分の家は普通じゃない”と、小学校4年のときには休みがちに。5年生ではとうとう不登校になってしまった。
「人目にさらされるのが怖くって、カーテンは閉めっぱなしにしていました。小学5年のとき、父親に連れていってもらった病院で“小児性うつ”と診断されました」
真っ暗な部屋にひきこもる小学生に、先生や同級生は優しかった。
「先生たちは何回も家庭訪問に来てくれて、友達も訪ねてきてくれました。特に校長先生はよくしてくれて、夏休み、校舎の建て替えをしていたんですが、“藤井くん、新しい校舎を見にこない?”と、連絡をくれたことも」
だが当時はこうした思いやりに、元気な顔を見せて応えることはできなかった。
ひきこもりの状態のまま、2005年3月には小学校卒業。4月からは中学生に。心機一転、新しい環境で立ち直るチャンスだった。
「“もう一度学校に行けるかも”と通い始めました。でも1週間で、体力的にも精神的にもしんどくなって……」
わずか1週間の通学で、藤井少年はふたたび不登校に。その状態から脱することができないまま2年生になり、3年になり、進路相談で久々に登校したときの出来事だった。
「緊張もあって同級生に会いたくないと、授業をやっている時間に行ったんです。ところが校門にいわゆる“不良生徒”たちがたむろしていて、“おまえ、なに見てるんだよ!”と胸ぐらをつかまれて。必死に振り切って、職員室に逃げ込みました」