「最初、作品の内容を勘違いしていました。“フンパヨン”ではなく、似たタイ語でロボットという意味の“フンヨン”と読んでしまって。もしかしたら、コメディー作品なのかもしれないとも思いました。“(日本語で)すみません”」
撮影前には自閉症の子どもたちの財団を訪問
笑顔で話してくれたプーンパット・イアン=サマン。アップの愛称で知られる彼は、タイ発のBLドラマ『Lovely Writer The Series』で大ブレイク。『Step by Step』などのBLドラマや、韓国の青春ドラマのリメイク作品『Start Up』に出演し、人気を集めている。
「実は苦手なジャンル」というホラー映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』への出演を決めた理由を聞くと、
「ポンタリット・チョーティグリッサダーソーポン監督からいただいた映画のプロットを読んで、役者として新たなチャレンジができる役だと思いました。それで、オーディションに参加することを決めたんです」
今作でアップが演じたのは、ある出来事に巻き込まれていく心優しい自閉症の青年・テ。これまでの作品と同様、演じるキャラクターのバックグラウンドを理解しながら、スタッフと話し合いを重ね、テを作り上げていった。
「撮影前にタイの自閉症の子どもたちの財団を訪ねました。そこで、それぞれ表現の仕方は違いますが、たくさんの才能のある子たちと話をしたんです。財団の理事長からもいろいろと教えていただきました。もちろん、これだけで100パーセント自閉症の子どもたちのことを理解できたとは言えませんが、この経験を持ち帰って監督やアクティングコーチと相談しながら自分なりにテという人物に命を吹き込んでいきました」
オーディションで演じたテと、実際の撮影で演じたテは別人のようになっていたと思うと語る。
「僕自身、どちらかといえば役に入り込むタイプだと思います。テは、感情を身体で表現する部分もあったので、撮影中はなるべくキャラクターから離れたくないという思いがありました」
タイトルにある“フンパヨン”とは、タイに古くから伝わるお守りのような呪物。所有する人によっては、破滅を招くものにもなる。
「今回のお話をいただいて初めて“フンパヨン”というものを知りました。タイに古くからある風習ですが、現代の人には知られなくなってきた。だからこそ監督は、この映画を作ったのだと思います」
撮影が行われた島には、亡くなった人とほぼ同じ大きさで作られた土の像の胸の部分に遺骨を納めた“フンパヨン”が何体も置かれていた。
「出演者もスタッフもいい方ばかりで楽しい撮影だったのですが、ロケ地が……。僕、なぜホラーが苦手かといえば、ちょっとしたことで驚いてしまうから。なので、撮影中はコンタクトレンズを外して演じました」
劇中、沼に引きずり込まれるシーンがある。
「水に入るシーンは、島のいろいろなところで撮影をしたんです。魚が足に食いついてきて驚いたこともありました。演技ではなく、本当に驚いた姿が映画に使われているのでかなりリアルだとかと(笑)。この映画、どのシーンも演じることが難しかったのですが、そのおかげで演技はかなりスキルアップできたと思っています」
撮影現場には父親にもらったお守りを持っていくという。
「いつもカバンに入れています。僕を守ってくれていると思いますね。“(日本語で)本当にありがとうございます、お父さん!”」
インタビュー中、日本語を交えながら話をしてくれたアップ。幼いころから、日本文化に親しんでいる。
「よく日本に来ていますが、最近は仕事ばかり。プライベートで遊びに来たいですね。食べ歩きがしたいです! 今回も大好きなひつまぶしを食べる時間はなさそうで……。でも、昨日、レコードショップへ行ったので満足です」
松原みきのアルバムや、スタジオジブリのサウンドトラックなど4枚のレコードを購入したとうれしそうに報告してくれた彼に、今年の12月で30歳になることについて質問すると、
「ドキドキしています。タイでは30歳になると責任が増えるイメージがあるので。できれば、まだまだ20代でいたい(笑)。あと数か月の20代のうちにしたいのは、投資。でも、まったく知識がないんですよ。勉強しようかなと思っています」
20代で俳優業への投資を重ねてきたアップ。30代では、どんな姿を見せてくれるだろうか。
映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』
タイの2大若手スター、プーンパット・イアン=サマンとプーウィン・タンサックユーンが共演。出家した兄に会うためにドンシンタム島の寺院を訪れたターム(プーウィン)は、寺に住んでいる青年・テ(アップ)と出会う。兄が前の住職を殺して逃亡したという噂を聞いたタームは、兄捜しを始める。7月5日(金)より、シネマート新宿他にて全国順次公開