『20センチュリー・ウーマン』●監督:マイク・ミルズ/出演:アネット・ベニング、エル・ファニング、グレタ・ガーウィグほか/上映時間:1時間59分/アメリカ/配給:ロングライド/PG−12 2017年6月3日(土)より、丸の内ピカデリーほかで全国公開 (c) 2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 映画やドラマを見て、自分もこんな子ども時代を過ごしたかった……と主人公に激しく嫉妬した経験って、ありません? 本作で久々にそんな感情に陥ってしまいましたよ。

 55歳のドロシアは、シングルマザー。ひとり息子のジェイミーと良好な関係を築いてきたが、彼も15歳と思春期を迎え、何かと難しい年ごろ。そこでドロシアは、部屋を間借りさせている写真家アビーと、ジェイミーの幼なじみのジュリーに、人生の指南役をお願いする。時はリーマンショックやら9・11が起こる前の、1979年の米国。ヒッピー文化の中で育ったドロシア自身も相当イカした女性だが、アビーはパンクで、ジュリーはおませさんときた。かくして、ジェイミーの刺激的なひと夏の体験のはじまり~。

 大人になるためのレッスンは人生哲学だったり、カルチャー、女心と多岐にわたるのだけど、何がいいって、それを伝える含蓄ある言葉の数々。もはや格言と言ってもいい。例えば、息子に「幸せ?」と聞かれたドロシアの答え。

「それ聞く? 幸せかどうかなんて考えたら鬱になる」

 アビーは、ジュリーとプラトニックな関係を続けているジェイミーにひと言。

「“寝る気”のない女とベッドをともにしちゃダメ。男の自信をなくすわよ」

 ほかに、女性にトラブル相談をもちかけられたときの、世の男性の態度を批判したドロシアの言葉も秀逸。

「男は問題を解決しようと躍起になるか、何もしないかのどっちかね。相手に寄り添うってことができないのよ」

 くーっ! こんなカッコいい言葉を持っている大人に囲まれて育ったら、絶対、人生が変わるはず。子育てにお悩み中のお母さんのヒントになることは間違いないのだけど、できれば親子鑑賞がオススメ。親の子に対する思いがいっぱい詰まっているので、グッと距離が縮まるのでは? まずは音楽が魅力的なので、それをエサに誘ってみましょう。

文/中山治美(映画ジャーナリスト)