ジャンルが50歳にして広がる
『半沢直樹』から4年。多忙な日々は続いている。今年前半の主な活動だけで、1月ミュージカル『キャバレー』、3月リュート奏者つのだたかしとコンサート、4月『題名のない音楽会』6代目司会者就任、ドラマ『冬芽の人』、5~6月ミュージカル『パレード』。
間もなく52歳になる石丸幹二は、どこへ向かおうとしているのだろう。
「50にして、いろんなジャンルに、一気に扇を広げました。テレビでは悪役や、司会をやったり。今後、もっと違う形の発信もあるかもしれない。ただ自分の人生で、あと何年できるかなという引き算はしています。すると、すぐ成果を出したいと急いでしまう」
ドラマでは、この夏『半沢~』と同じ池井戸潤原作の『アキラとあきら』でオーナー企業の2世、一磨を演じる。現場で接する人たちの目には、どんな男に映っているのだろう。
原作者の池井戸潤は、
「一磨役はぴったり。優秀な経営者であり宿命を背負うプリンスという役柄は、石丸さんにとってやりやすかったのではないだろうか」
池井戸作品に石丸が出演するのは3作目となる。
「『半沢直樹』で敵役で初めて出させていただいて、『ルーズヴェルト・ゲーム』は翻弄される三上部長。今回は会社の社長で、向井理くんが息子で、思いを託していく。3作で違うキャラクターをやらせてもらって、こんなに幸せなことはないですね。
それとこの作品は“偶然”というワクワクが仕掛けてあり、すごいストーリーの作り方をされていると思います。
池井戸さんの本は、その道の通がうなるような、リアルが描かれているのもしびれます。今後もチャンスが来たら、出させていただきたいなと思っているところです」
『アキラとあきら』のWOWOWの青木泰憲プロデューサーは、正統派のたたずまいを持っている人と評する。
「特別なものを持っている人だと思う。あの顔立ちと、声もよくて、常に礼儀正しくて、頭もよくて。ご自分をそういうふうに育ててきたのだと思う。ゆとりがあるんじゃないですか、心の。人をライバル視するとか一切なくて誰に対しても優しい。それは憧れても、なりたくてなれるものではないので、すごい人だなって眺めている(笑)」
自分のビジュアルについてはどう思っているのだろう。
「顔がいいとか自分では思ってないんです。ただ、そういう役が似合うねって言われることは、ありがたいことだと思ってます。親に感謝してます(笑)。でも決して人は、顔がいいから心がキレイなわけではないことも知り。自分はこういう仕事をしてるんだから、心はキレイでいたいなと思うようにしようと、頑張っている。アハハ」
一方『アキラとあきら』の水谷監督は、人間観察の視点から分析する。
「長年、舞台で主役をはってこられた方ならではのオーラは、どこから来ているのかなと。リュートと共演して武満徹を歌うアルバムを聴いてみたんです。この人の若いころから積み上げてきた強さは、求道的な強さから来ているのだろうと思った。個人的な願望として、歌舞伎の鶴屋南北もののような、甘くて極悪な石丸さんを見てみたい」
極悪の石丸を見たいという人が、もうひとり。初の悪役をすすめた大阪の水野幾郎だ。
「育ちのよさが、善人がにじみ出るところがありますからね。50半ばで、誰が見ても背筋が凍りつくほどの悪い役ができたら、この人の役者人生、本当におもしろくなるだろうなって。王子様が好きな人だけじゃなくて、役者としての石丸さんを見てくださる方を増やさないと。そしたら、役者人生が長いでしょ」
石丸が「極悪人」の役を選ぶ日は来るのだろうか。
「自分の中にも人並みに、嫌なところはありますよ。自分としては、いいところだけじゃなく、悪いところも出しながらやってるつもり(笑)。でも浅利慶太さんに最初に言われたんです“君たちはこういう仕事なんだから、これからは風呂に入ってるときも“公人だと思え”って(笑)」