日本語の歌を一生かけて歌いたい
「歌はね、役を演じる、役の人物として生きる、というのとはまた違うんです。あくまでも私(わたくし)発信になるんです。歌は、私が歌う。私自身の感性で、言葉どおりに素直に歌っていますね」
石丸は、歌い手としての活動にも力を入れている。ある時はフルオーケストラをバックに、またさまざまなアーティストや、シンガーと共演して、美しい日本語の歌で人の心を穏やかに満たす。
「日本には名曲がたくさんあるんですよね。唱歌、童謡、昭和歌謡。歌番組に出演すると、思いがけない歌との出会いがあります。そういうきっかけから、歌手としてワクを広げていきたいと思うようになりました。日本語の歌を、一生かけて歌っていきたいなと思っています」
弦楽器リュート奏者の、つのだたかしとも、石丸の朗読と歌との演奏会を続けている。子息の角田隆太もベーシストとして参加するアルバム、石丸幹二&つのだたかし『武満徹のうた』では、静謐(せいひつ)な弦楽の調べと、日本語で、研ぎ澄まされた世界を作り上げる。つのだは語る。
「リュートという楽器は音がとても小さいのだけど、石丸さんが舞台にいて、僕が♪ポロンと鳴らしたときには、もう空間ができている。彼は歌うように語る、語るように歌う。歌詞で甘い、苦い、喜びの感情が表現できるのは、天性のものだね。とても柔軟だけど、実はすごい努力家。彼の歌の力と演技力を全部引き出せたら、すごいだろうなあ」
一方、石丸はこう語る。
「つのださんとは、シンプルに歌っていくことで、その世界観が出るようなことを、ずっと演奏会でやっていますね。武満徹さんの音楽も歌っていますが、歌詞も文字の裏にいろんなメッセージがあるので、それを伝えたくて」
石丸は、人前で何かをパフォーマンスする人生は「竹」なのだという。節目、節目でいろんなことをやるからこそ、強く上へ伸びていけるのだと。
「劇団をやめてスタートして、もう1個、次の節が来たなと思ったときに、自分が歌手として、世界中の名曲を歌うことを、これからの自分の居場所としてもいいのかなと思ったんです。
日本の名曲は、もちろん日本語で歌えますし。そういう活動は、その“節”から始まったんです。次の節はいつ来るかはわからないけど、みなさんに歌っていただける、石丸幹二の歌がいつか生まれるといいですね」