自治体間で保育士の奪い合い
保育士をどう確保するかも大きな課題だ。
厚生労働省によると、都内の保育職員の平均年収は369万円。全業種613万円の約6割でしかない。
「これまで保育士の給料がなかなか上がらなかった。’00年度以降、微減が続き、’16年度になって’00年度の水準に戻った」(村山所長)
保育士には非正規職員として働く人が多く、正規職員でも実質的にパートタイム労働で、低賃金にあえぐ人は多い。
「子どもと接する時間が8時間とすると、親の対応はその別の時間に常勤の正規職員がすることに。非正規職員を雇って頭数をそろえても、正規職員にしわ寄せがくる。そのため正規にはなりたくないという声も出ています。非正規に事務を任せようとすると、負担が増えるために辞めてしまう。悪循環です」(村山所長)
このため都では、’15年度から保育施設の運営事業者に対し、保育士1人当たり2万3000円を補助している。国も保育士の給料の助成を拡充したことから、’17年度から国の補助分と合わせて1人当たり月額4万4000円相当を補助。これでようやく幼稚園教諭の賃金水準と並ぶ。
こうした動きは周辺自治体にも影響を及ぼす。千葉県や埼玉県の市町村では、東京に負けじと保育士の住居を借り上げて一定期間、補助するようになり、保育士の奪い合いが起きている。
保育の質はどう担保するのか。
都民ファーストの会の政策では、小規模保育の受け入れ年齢を現行の“2歳児まで”から“5歳児まで”に広げようとしている。
「小規模保育所は基本的には1~2歳児の受け皿。これを拡充する規制緩和をしても、年齢に応じた活動ができません」(村山所長)
内閣府子ども・子育て本部によると、昨年の全国の保育施設での死亡事故は13件だ。うち認可外保育所は7件。規制緩和が死亡事故のリスクを高めることにならないか不安だ。
質・量ともに保証できる保育施策が求められている。
取材・文/渋井哲也…ジャーナリスト。『長野日報』を経てフリー。自殺、いじめ、教育問題など若者の生きづらさを中心に取材。近著に『命を救えなかった─釜石・鵜住居防災センターの悲劇』(三一書房)がある