次に「優越的地位の濫用」です。

 独占禁止法は、契約の一方が優越的な地位にあることを利用して、契約の相手方に不利になるような条件を設定すること(優越的地位の濫用)を禁止しています。芸能事務所が出す条件を芸能人が拒否することは現実的でないとすると、優越的な地位を利用して、芸能人側からのみ所属契約解約ができないようにすることは、この禁止規定に抵触する可能性があります。

 なお、多くの芸能事務所が所属する業界団体「日本音楽事業者協会」は、事務所が芸能人と結ぶ契約書の雛形となる「専属芸術家統一契約書」を作成しており、その中で、事務所と芸能人の関係について、「互いに対等独立の当事者同士の業務提携」としています。

 しかし、仮に契約書中にこのような条項があったとしても、優越的な地位の濫用があったかの判断は当事者の力関係の実質を見て判断されることになります。

 最後に「事実上の闇カルテルの疑い」です。

 実際問題として、芸能人が契約上(法律上)所属事務所との契約を解消できたとしても、その後の芸能活動が難しくなるという問題があります。

 たとえば、事務所を辞めた芸能人をテレビ局が起用しようとした場合、その芸能事務所が他の所属芸能人をそのテレビ局に出演させないようにしたり、さらには他の芸能事務所にも働きかけ、その芸能事務所も所属芸能人をそのテレビ局に出演させないようにしたりということが現実的にあるようです。

 テレビ局が移籍した芸能人を起用したいと考えても、移籍前の芸能事務所との取引・利害関係を考慮して、それがかなわないこともあります。

 独占禁止法では競争関係にある他の事業者と共同して取引を拒絶することを禁止しており、今回の有識者会議はこの点も調査しようと考えているとみられます。

プロ野球の場合は?

 芸能人以外で移籍に大きな制限がある典型例がプロ野球選手です。

 プロ野球選手は、原則として選手本人の希望にかかわらずドラフト会議で所属球団が決まります。また、球団との契約は原則1年ごと(正確には2月1日から11月30日までの10カ月)であるにもかかわらず、球団側にのみ更新権があり、選手は事実上「所属球団との契約を更新する」か、「プロ野球選手を辞める」かの二者択一を迫られます。

 さらには、ある日突然「トレードになった」と言われ、他球団への移籍を余儀なくされることすらあります。