無人駅の勤務というのは恐ろしく暇である。そもそも、電車が上下線を合わせて30分に1本しかなく、高校生サーファーが多く乗っている列車も、朝の2~3本だ。その時間を過ぎれば、もはや乗降客はほとんどいない。暇つぶしも兼ねて掃除をするが、そんなものは1時間もしないうちに終わってしまう。あとは時間との闘いである。

ベテラン駅員が教える不正乗車対策のコツ

 それだけに、朝の下り電車が到着すると張り切りたくなるが、ベテラン駅員は、

「乗客が改札に来るまで身を隠しておくといいですよ」

 と、教えてくれた。無人駅に駅員がいることが分かると、線路に降りて逃げ出す高校生がいるのだ。

 “狩り”のようである。相手を警戒させないように気配を消して、何も知らない彼らが改札に来たときに、急に姿を現して切符を求める。人間にも習性があり、不意を打たれると逃げ出せなくなり、素直に切符を出してしまう。彼らは初乗りの切符しかもっていないことが多く、ほとんどが1000円以上の高額な乗り越し清算だ。完全な確信犯である。

 不正乗車対策は面白かったが、躍起になりすぎてもいけないと注意を受けていた。ガラの悪い乗客もおり、トラブルが起きやすいとのこと。無人駅を管轄する駅では、夏が始まる前に駅長が交番に挨拶をしに行くのが定例になっていた。何か起きたときに、迅速に駆けつけてもらうためだ。

 実際、私が勤務していたときにも、高校生サーファーが駅で暴れたことがあった。彼らは、乗ってきた電車で車掌と揉(も)めて(彼らの乗車態度が悪かったようだが)、そのときの鬱憤(うっぷん)を駅員にぶつけたのだ。

 その怒りはすさまじく、私も暴力を振るわれる寸前だったが、何とか管轄駅に連絡して警察に駆けつけてもらった。このときは警官が来てくれて本当に安堵した。警官にまで食って掛かるほどタチが悪い高校生だったが、おかげで怪我だけは免れることができた(こちらが怪我でもしない限り、警察は実力行使まではしてくれないのだが)。

 そんなトラブルもあったが、それ以外は穏やかなものだ。昼間はほとんど仕事がなく、夕方に高校生サーファーたちが帰路につくと、また暇になる。夜になって地元の人たちが勤め先から戻り始めると、それが一日の最後の仕事という具合だ。

 ただ、この勤務終了間際の仕事で、私は現実を知ることになった。不正乗車をするのは高校生サーファーだけではない。地元の人も日常的に行っていたのだ。