古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、テレビ業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第27回は樋口卓治が担当します。

磯田道史 様

 今回、私が勝手に表彰するのは、歴史学者の磯田道史先生である。

 磯田先生といえば、映画化された『武士の家計簿』や『殿、利息でござる!』の原作者で、とにかく話が興味深い。

歴史学者の磯田道史氏

 その源流は「歴史は未来を良くするためのもの」というところにある。

 生で磯田先生を見たのは、昨年末に放送された『古舘トーキングヒストリー忠臣蔵、吉良邸討ち入り完全実況』(テレビ朝日系)の収録だった。

 この番組は、日本人にはお馴染みの『忠臣蔵』ではなく『吉良邸襲撃事件』として捉え、その一部始終を古舘伊知郎が実況するという企画で、四十七士がどうやって討ち入りを成功させたかを史実を元に描いた。

 時代劇『忠臣蔵』と違うのは、四十七士は堂々と行軍していなかったり、吉良邸の前で陣太鼓など打ち鳴らさない。あくまでもバレないようにやる。そんな解釈で作ったVTRを磯田先生が興奮気味で解説してくれた。

「赤穂浪士が吉良邸でまずしたことは、用心棒の長屋を閂(かんぬき)で封鎖した。そうすれば出てこられない。そこを描いてほしかったんだ!」とVTR中も水を得た魚のように話してくれた。  

 磯田先生の強みは、歴史学者だから古文書を読めるということだ。

 自らを「歴史の救急車」と言っている。どういうことかというと、過去に日本は近代化を急いだゆえ、文系と理科系に分けてしまい、歴史は嗜(たしな)むものとして扱われてきた。