年齢を理由には行動に制限をしない
若宮さんはデジタル機器を使いこなせるようになると、教える側にまわった。
前述のBBSの仲間とともに、高齢者にパソコンやスマホなどを普及するボランティア活動を長年続けている。
メンバーのひとりで20年来の友人である近藤則子さん(62)は、若宮さんの行動力と勇気には驚かされてばかりだという。
「普通だったら、何歳になったからと年齢で行動を制限しちゃう人が多いけど、マーチャン(若宮さんの愛称)は本当に好奇心がいっぱいで、何か新しいものがあったら、すぐにチャレンジするし、どこか行きたいところがあったら、すぐに行くんです」
しかも、周りの人が「ちょっと危ないんじゃない?」と心配するようなことでも、若宮さんは「大丈夫、大丈夫」とやってしまうのだと、近藤さんは強調する。
「ヨーロッパでもオーストラリアでも、ガイドブックに載ってないようなところを自分で調べて、宿泊の予約もしないで1人で行くんですよ。
一緒に香港に行ったときも、2人とも中国語は話せないのにマーチャンがタクシーを止めて交渉して。サバイバルじゃないけど、そういう生きる力がすごいですね」
若宮さんが初めてフランスに旅行したのは40年近く前。まだ持ち出せるお金の制限などがあったころだ。
安い宿に泊まり、好奇心のおもむくままに珍しいものや現地の人の暮らしを見て回るのが若宮さん流だ。銀行で管理職になってからも率先して有休を取り、毎年、海外に行った。旅先で便利だろうと英語も習った。
そうして習得した英語が、後にアプリ開発にも役立ったのだから、人生は面白い。
面白くなくっちゃ、やる気にならない
10年以上前から、自宅でパソコン教室も開いている。若宮さんが開発した「エクセル・アート」で日本の伝統的な模様をモチーフにデザインをしたり、ワードで絵を描いたり、楽しみながら技術が身につく工夫をしている。
「高齢の女性は手芸とか好きでしょう。エクセル・アートはその延長線上ですから、喜んでおやりになるんです。しかもエクセルを勉強すると、コンピューターとは何か、わかってくるんですね。
シニアにパソコンを教えるというと、よく家計簿と1か血圧の推移をグラフにしたりするけど、そんなのちっとも楽しくない。やっぱり、面白いからやってみたいと思わせないとダメですよ」
生徒は60代から80代まで女性ばかり6人だ。今年3月から通い始めた山澤和江さん(62)に聞くと、和気あいあいとおしゃべりしながら教わる家庭的な雰囲気で、すぐになじめたという。
「本当に脳トレみたいです(笑)。パソコン歴は10数年ですがエクセルは初めてだったので、最初はチンプンカンプンでした。作業は同じことの繰り返しで、色を変えたり、方向を変えたりしますが、手がうまく動かない。先生に言われると、なるほどそうだと思うけど、家に帰ると忘れちゃう(笑)。何度もやらないと自分のものにならないですね」
山澤さんがワードで描いた花の絵を印刷したポストカードを見せてくれた。友人に配ったら好評だったという。次はエクセル・アートでデザインした絵をシャツにアイロンプリントして、身につけたいと張り切っている。