最大の後悔は、パートナーと別れたこと
ハルオミさんは今も、人生で最大の後悔は、このパートナーと別れたことだという。しかし、私には、彼のつまずきは、彼自身も認めるその「恋愛体質」と関係があるようにもみえた。若い頃に全身全霊を注いだ同性愛者団体から認めてもらえなかったのも、安定した仕事を失ったのも、原因は恋愛だったのではないか。
私は、ゲイやレズビアンに性に奔放な人たちが多いとは思わない。ただ、ストレートに比べて性的マイノリティのカップルは出会う確率自体が低いから、恋愛に積極的にならざるをえない面はあるだろう。また、いじめや差別、家族との不仲などから、精神的に不安定になり、恋愛に依存せざるをえない人も少なくないのかもしれない。
恋愛をやめられないことと、自身がLGBTであることは関係があると思うかと尋ねると、ハルオミさんは「わからない」と言う。恋愛はやめられないのかと重ねて問うと、「『パリ、夜は眠らない。』という映画を知っていますか」と言ってきた。
1980年代のニューヨーク・ハーレムを舞台に、黒人ゲイたちの姿を中心に描いたドキュメンタリー映画である。LGBTに対する風当たりは、今とは比べものにならないほど過酷だった時代。ダンスパフォーマンスの様子や、ゲイたちのインタビューで構成されている。中には命を落とす人も出てくるが、バッドエンドではない。
「黒人で、ゲイ。当時はバレたら、殺されかねない時代でした。そんな中でも、彼らが自分らしくあるために、ありとあらゆる手段で恋愛を楽しむ姿がとっても好きなんです」
私の問いに対する答えにはなっていない。ただ、LGBTであることをカミングアウトして東京の街中を練り歩くなど考えられなかった時代に、ハルオミさんが孤立感にさいなまれながら、日本のセクシュアルマイノリティの権利を社会に認めさせた先駆者のひとりであったことは確かだ。
映画の中で、ひたむきに、エネルギッシュに生きる主人公たちに、自分を重ねているのかもしれない。
藤田 和恵(ふじた かずえ)◎ジャーナリスト 1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか