すぐ救出すれば助かるから!

 まさか。そう思いながら保延さんが川岸に近づくと「ヴァーヴァー」と、うなり声が聞こえてきた。住宅街より一段低い川岸をのぞき込むと、土中から人間の手首が……。ネコではなく赤ちゃんだと確信し、携帯電話で119番通報しながら川岸に急いだ。

「赤ちゃんが埋められて泣いている。至急、来ていただきたい。すぐ救出すれば助かるから!」

 周囲より少し盛り上がった地面から両手首と右足首が飛び出ていた。泣いているのは生きている証拠。赤ちゃんを傷つけないように両手でそーっと土を2回掻くと、青いタオルが見えた。2、3枚のタオルの下から生まれたばかりとみられる赤ちゃんが現れ、新鮮な空気を吸って泣きやんだ。目をつぶっていて身体全体が湿り気を帯びていた。

男児が埋まっていた場所で、土をどけるシーンを再現する保延さん
男児が埋まっていた場所で、土をどけるシーンを再現する保延さん
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「バスタオルかなんか持ってきて!」

 保延さんは「必要ないほどの大声で叫んだ」という。

 インターホンを押した女性は近所の50代女性と様子を見守っていたが、慌てて自宅にバスタオルを取りに戻った。

「赤ちゃんの顔や身体にアリが這い上がってくるんです。僕はそれをフーッ、フーッと息を吹きかけ払い落とし続けていました」(保延さん)

 赤ちゃんのお腹からはへその緒が約20センチ伸びていて、先端は血の滲んだ胎盤の一部が小さなコンビニ袋にくるまれて地中に埋められていた。女性2人は躊躇なく地べたに座り込み、救急車が到着するまで約10分、赤ちゃんを動かさないように抱きかかえて待った。遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。

「僕はもう1度、119番しました。道がわかりにくいので1秒でも早く道案内するために」(保延さん)

 東村山消防署は後日、3人に感謝状を贈った。小平市内の病院に搬送された赤ちゃんは感染症や黄疸を発症していたが、命に別条はなかった。関係者によると、すでにNICU(新生児集中治療室)を出て相当回復しているという。