”社会的な安定”では得られない充足感
現役復帰してから、4年が経過。憧れの海外野球は思った以上に厳しい世界だと感じている。独立リーグと言えども、中南米、ヨーロッパ、アジアと世界各地から選手が集まり、鎬を削る。NPBで活躍する日本人スラッガーと同等の飛距離を出す選手など、どこのチームにもいるし、ホームランを打てる選手が1番から9番まで揃っている。150キロを超える投手は、どのチームも数人はいるし、解雇や故障で退いた選手の代わりに入ってくる選手もまた、そのクオリティのパフォーマンスを見せる。
アメリカ野球の裾野の広さを感じる。正直なところ自分の代わりになる選手などいくらでもいるし、そもそも小柄な日本人選手が入る隙などないようにも感じてしまう。やっとの思いで独立リーグの球団と契約できても、成績不振ですぐにクビ。結果が出ないとすぐに解雇されるのが、海外野球の厳しさだ。
だからと言って、簡単には引き下がれない。各リーグの試合が行われている球場を回り、スタンド最前列から、また時には球場の外の職員通用口の前で、選手やスタッフに話しかけ、監督につないでもらい、拙い英語でテストを受けさせてくれと懇願する。わざわざ日本から来たことを知れば、たいてい試合前練習に交じらせてもらい、実力ぐらいは見てもらえる(たまに門前払いもあるが)。
多くの場合、登録枠に空きもないし、現戦力に問題がなければ、契約に至ることはない。それでも、この心意気を買ってくれる人もいる。キャナムリーグのトロワリビエール・イーグルスの当時の監督、ピエール・ラフォレストは「その行動にリスペクトだ」と言って、契約してくれた。チャンスは自分で作り、自分で掴みに行くものだ。
将来安泰の道を捨ててここまで来たのだから、他の野球人と同じことをやっていても仕方ない。サラリーマンを辞める時、もう一つ決意したことがあった。それは、先行きが不透明な中、挑戦を続ける野球人たちのストーリーを追った書籍を作ることだった。
私のように競争からこぼれ落ち、それでも「何か」を求め続けてきた野球人は私以外にもいる。この道を選択したことで生じる苦悩や不安。野球に携わり続けることを選んだ人たちは何を思い、どう過ごしてきたのか。彼らのストーリーを追い、その人生観にせまりたいと思った。そのストーリーはどれも、決して華やかな世界ではないが、一際目立つ輝きを放っている。そんな彼らの輝きを多くの人に知ってもらいたいと思い、こつこつと書いてきた。
今回、『NPB以外の選択肢』(彩流社出版)で8人の野球人を取り上げさせてもらった。一人ひとりインタビューを行い、彼らの人生を掘り起こしてきた。
そこから見えてきたものは、続けることで、道が開けることもあるし、その行動自体が人生全体を充足させてくれるかもしれないということ。そして、こうした生き方は社会的な成功や安定といった価値基準では、決して計ることはできないということだ。
このような野球人たちの生き方が、人生の選択に迷う誰かの助けになることもあるのではないか。それだけで、私のこれまでの歩みは価値があったと胸を張って言えると思う。