声を上げ意思を示すことで変えられる
そんな中、国と東電の責任追及と被害の救済を求めた裁判が全国各地で提訴、今年6月には前橋地裁、9月には千葉地裁で判決が出た。そして前述のとおり、今月10日には福島地裁で生業訴訟の判決が出た。
10日の判決直前、応援に駆けつけた群馬県の原発避難者訴訟・原告、丹治杉江さん(60)は、「公示日に判決が出るのは運命的。勝たなければ日本の正義は終わると思う。本当に苦しい状況にある被害者は、ここ(裁判)には来られないんです。裁判に来られない人、これから生まれる人に少しでも負のリスクをなくしたい」と思いを語っていた。
生業訴訟の判決では、国は’02年の段階で原発敷地の高さを超える津波を予見できており、その対策を命じていれば事故を防げたとして、原発事故における国の過失を認めた。
原告らは、「自分たちだけの闘いではない」としきりに訴える。福島県民200万人の被害、さらには福島県を超えて被害を認めさせることを目指している。実際、今回の判決では福島県外の被害が認められ、救済の範囲が広がった。また原告らは、この判決で終わりにせず、これをテコに被害者救済について政策への反映を求める方針だ。
判決後、原告団長の中島孝さん(61)はこう話した。
「われわれが目指すのはやさしい社会です。痛みがある人に心を寄せる。でも、今の政治状況はそうなっていない。そのことが今回の生業訴訟の判決に表れていると思うんです。衆院選の公示日にこの判決が出たのは“原発事故は終わっていない”と強いメッセージを発したと思う。事故は終わっていないんです」
前出・馬奈木弁護士は判決の意義を次のように語る。
「今回の判決は、原発を運転し、津波の発生が予見できたのなら、事故が起きないよう万全の体制をとらなければならないことを認めた判決です。この当然のことを、国や東電は放置してきた。国や企業のありようを問う意味でも重要です。
また、この判決のもうひとつの意義は、被害者が被害者のままで終わらず、自ら声を上げることによって尊厳と権利を勝ち得るのだというところ。原発に限らず、社会に存在する多くの課題は、私たちひとりひとりが声を上げれば変えられる。そのメッセージがたくさんの人に伝わればと思います。大事なことは自らの意思を示すことです」
取材・文/吉田千亜 フリーライター、編集者。福島第一原発事故で引き起こされたさまざまな問題や原発被害者を精力的に取材している。近著に『ルポ 母子避難』(岩波書店)