前出の隣家の女性が預かったこともあるという。
「7月か8月かな、警察官が家の前をうろうろしているわけ。話を聞くと、また外に出ちゃうかもしれない。息子さんには電話がつながらないし、交番には僕ひとりで戻らないといけないから困ったっていうの。だからお母さんを2度ほど預かったことがあるのよ」
隣家から「鍵をよこせ!」「出ていっちゃいかん」─そんなやりとりが時折、聞こえてきたことがあったが、普段の容疑者は、
「本当に腰が低くって、おとなしくて、いい人ですよ。午後3時くらいに自転車に乗って仕事に行ってね。深夜まで仕事をしていたんじゃないかなぁ。私がお母さんを預かっていると、“本当にすみませんでした。迷惑ばかりかけて申し訳ない”って、すっごく悔しそうな顔をしてね……」
苦労する容疑者に、どこかの施設へ入れたら? と女性が提案したこともあったが、
「うちのお袋は脚も丈夫だし、言いたいことは言うし、どこも入れてくれないんですよ、って話していてね。
警察から電話が来れば迎えに行かなければならないし、仕事も手につかないだろうよ。ひとりで悩んで苦しかったろうに。どっちもかわいそうにね……。ただただ悲しいだけだよ」
外出を止めることは不可能
県警中村署は13日、司法解剖の結果、節子さんの死因は急性心筋梗塞(内因死)と発表した。暴力が原因ではなく内臓の不調によるものなのか。
循環器内科医で、平成横浜病院総合健診センター長の東丸貴信医師は、
「冠動脈がそこまで狭まっていなくても、動脈硬化病変が傷や炎症で脆くなり血栓ができると心筋梗塞になります。80代の高齢者で、心臓の血管に動脈硬化病変がない人は、ほとんどいない。
暴力を受けたショックでアドレナリン等も放出され血圧も急上昇すると、脆い動脈硬化巣が破裂して血栓ができやすくなります。日常のストレスも複合的に重なり、引き金となったということは十分に考えられます」
事件が起きた時間は、容疑者がいつも仕事に行く時間と重なる。出がけに、外出すると言い張る母親に思わず手をあげた結果の不幸な出来事。