熊本の復旧・復興、さらなる発展へ

 昨年4月、熊本県では、28時間の間に震度7の地震に2度も見舞われるという悲劇が起こった。このときも蒲島は、「熊本には3つの宝がある。熊本城と阿蘇とくまモン。熊本城と阿蘇は傷ついたが、くまモンは元気です」とアピールした。くまモンはさまざまなキャラクターの中で人気・好感度ともに日本一である。くまモンを通して熊本を応援したいと願う人々が次々と手を差しのべた。

くまモンが登場して7年。知事と一緒に国内外に熊本の素晴らしさを伝える
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 蒲島は地震から2日後には「くまもと復旧・復興有識者会議」の立ち上げに着手し、「復旧・復興の3原則」を発表。被災者の痛みを最小化する、創造的な復興を目指す、復旧・復興を熊本のさらなる発展につなげると確約した。

「ハーバード大学の国際政治学者、サミュエル・ハンティントン教授が『ギャップ仮説』という理論を出しているんです。これは期待値が実態を上回ると不満が起こるというもの。だから災害対応では、人々の期待値が小さいうちに、行政は先の展望を示すことも含め、実態を充実させていかなければいけない

 被災者の生活再建のためには、「住まい」と「仕事」の再建が重要だとしてきたが、地震から1年半たった今、住まいの再建への具体策も打ち出している。特に自宅の再建が困難な高齢者世帯に向けては「リバースモーゲージ制度」を採用、土地と建物を担保に、月1万5000円程度の利子分だけの支払いでの再建も可能にした。子育て世帯でも月の払いは2万円程度に抑えることができる。さらにすべての世帯に向けて転居費用を助成するなど、きめ細かな対策が講じられている。

 また、「創造的復興に向けた重点10項目」として、重点的に取り組む施策の加速化を図っている。県民の心の支えでもある熊本城は、2019年の国際スポーツ大会(ラグビーW杯、女子ハンドボール世界選手権大会)までに天守閣の外観が復旧する予定だ。

 今年5月、蒲島は初期の胃がんを公表、ゴールデンウイークに手術を受け、休み明けに復帰した。知事になってからほとんど休みをとったことのない彼が初めてとった1週間の“長期休暇”である。

「ただでさえ知事は過酷な仕事です。しかもあの地震後は1年半で何年分の仕事をしたのかと思うくらい心身ともに大変だったと思います。いくら楽天主義の知事でも身体が悲鳴を上げたんでしょう」

 小野副知事はそう振り返り、今後も身体を大事にしてほしいと語る。

「私の経験から言えることは、人生の可能性は無限大であり、夢を持つことが大事だということ。逆境の中にこそ夢があると思います。今回も地震というピンチをきっかけに、今まで以上のすばらしい熊本を作っていきたい。そのためには努力を惜しまないつもりです」(蒲島)

 蒲島は最後まで笑みを絶やさずそう言い切った。(敬称略)


取材・文/亀山早苗 撮影/宮井正樹

亀山早苗(かめやまさなえ)◎1960年、東京都生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。恋愛、結婚、性の問題、貧困や格差社会など、幅広くノンフィクションを執筆。近著に『日本一赤ちゃんが生まれる病院』『復讐手帖』など。くまモンの大ファン。